75.専門家に任せるのが安全ね
ふわっと温かい風が放たれる。全員が息をひそめ、体を動かさないようにしながら……目だけで周囲の変化を窺う。数分経過し、リュシーがくしゃみをした。
くしゅんと可愛い音なのに、大音量で鼻水交じりの鼻息が飛んで来る。
「うわぁ」
「こりゃなんだ?」
「リュシー、くしゃみをするときは横を向きなさいと教えたでしょう!」
私が厳しい声を出すと、慌てたリュシーが寝転がって誤魔化す。撫でていいよと訴えながら、ごろごろと左右に揺れた。鱗はもちろん毛皮もない哀れな姿なので、叱ったこちらが悪いことをした気になるわ。
「もういいわ、次は気を付けてね」
わん! 元気よく返事をするリュシーは、お詫びなのか。私に飛んだ鼻水を舐めようとした。間に飛び込んだレオがべろりと舐められ、途中で気づいたリュシーにぺっと唾を掛けられる。何をしてるの、あなた達は……。
額を押さえた私は、駆け寄った侍女から受け取ったタオルで汚れを拭く。レオもタオルを受け取るが、なぜか私の髪や顔を拭き始めた。断ると泣くだろうから、好きにさせておく。私の匂いが付いたタオルで拭きたいのよね? この変態。
「それで、結局何か起きたの?」
確認の声を上げると、思わぬ自己申告があった。
「おらぁ、腰痛が直っただ」
「あ? そんなわけ……おぉ、膝の痛みが消えてるぞ」
「うそっ、私も片頭痛が楽になってる?!」
庭師や侍女から次々と答えがあり、私はくるりと回ってみる。変化は感じられなかった。特にどこもケガをしていないから? レオも不思議そうな顔をする。
正確な結論は出ないが、慢性的な身体の不調を回復する可能性がでてきた。今後の検証は必要だけれど、ご先祖様の魔法道具で一番の人気商品になるかもしれないわ。治療院か神殿でも作って、祀ったらいいかもしれない。
三角の魔法道具が不調を治すなら、その前に出てきた白濁の球体は何かしら。興味をそそられるが、それで作動させて大陸が真っ二つになったら困る。好奇心をぐっと堪えて、お父様に新しい手紙を書いた。これを渡り鳥の魔法道具に託す頃、もう船は帰港前だろう。
「ご先祖様の遺跡の発掘は専門家に任せ、危険だから一般人は接近禁止にしましょう。その上で発掘した物は厳重に管理します」
最低限の決め事だけ命じ、私は踵を返した。お風呂に入って綺麗にして、ゆっくり休みたい。それはもう夢も見ないくらい、ぐっすりと。起きたら全部元に戻っているといいわ。
都合のいい夢を吐いて、自室へ引き上げた。一緒に風呂に入ろうと叫んでいたレオは、執事に叱られて回収される。安心してベッドに潜り込んだ。明日は何もない平凡な一日でありますように。願いながら深く息を吐いた。
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