74.毛刈りの成果は山盛り

 こんもりと積まれた毛の量と比べ、すっきりしすぎて可哀想なリュシー。くーん、ふぅんと甘える声を出すので、満足するまで小一時間ほど撫でた。触り心地がもふっとしないのよ。表現するなら、短髪の頭みたいな……。


 庭師達は一仕事終えたと、満足げに額の汗を拭っている。気の利く侍女がお茶を用意し、それぞれに寛ぎ始めた。茶菓子も出してあげて頂戴。追加報酬はもちろん出すわ。だって庭師の本来の仕事とは別だもの。


 リュシーから刈った羊毛ならぬ、竜毛? は、下女達によって洗浄された。ついでに黒い焦げた部分をちぎって処分する。綺麗な部分だけを残したが、それでも山盛りだった。庭師の皆さん、切りすぎではなくて?


 唸る私に、実家が蓄羊をしている侍女が教えてくれた。中途半端に切るより、ばっさりカットした方が生えてきた時に綺麗なのだとか。そもそもあれほどの毛量があるのに、一度も刈ったことがないリュシーの毛は絡まっていたらしい。


 コリンヌも一生懸命頑張ってくれたけれど、ブラシの先が届いていなかったのね。絡まった毛は洗って干す間にかなり解れ、手慣れた様子で街のおばあさま達の手で紡がれた。見事な毛糸の山になって戻ってくる。


 この間、わずか数日の出来事だった。羊の毛刈りシーズンではないため、民にとっていいお小遣い稼ぎになったみたい。私はセレーヌ叔母様の手ほどきで、編み物を始めた。刺繍は嗜みとして練習したけれど、編み物は経験がない。


 毛がなくても飛ぶのに不自由しないリュシーは、その後も赤い竜と仲良く遊んでいた。叱られても覚えていないのよね。また同じ失敗をしないよう、赤ドラゴンの方に言い聞かせておいたわ。


 編み目がようやく揃うようになった頃、一度全部解いた。新しく編み直すのよ。セレーヌ叔母様と一緒に庭の芝に絨毯を敷いて座り、並んでマフラーを作る。叔母様は慣れた手つきで、セーターに挑戦していた。あの域に到達するまで数年かかるそうよ。


 マフラーをもらえると思ったのか、レオがそわそわし始めた。ユーグ叔父様なんて、ご機嫌で鼻歌を奏でていたわ。音痴だなんて、知らなかったけれど……なんでもそつなくこなす人なのに、音程は取れないのね。


 渡り鳥の魔法道具が、お父様達が本国を出発した連絡を運んでくる。もうすぐ家族が揃うわ。事件もほとんど解決したし、魔法道具の再封印だけ考えれば終わり。私は単純にそう考えた。周囲も同様だろう。


 レオは結婚式の準備をしようと浮かれている。穏やかな午後の日差しを浴びながら、手を動かし続ける。編み棒が規則的に動き、マフラーを形にしていく。遊び疲れたリュシーが舞い降りた。今日も平和ね。


「新しい魔法道具が出たぞ! 今度は三角だ」


 魔法道具を持った青年が、発掘現場の裏庭から走ってくる。嫌な予感がした。転んだり……心配を口に出す前に、派手に躓いて転がる。魔法道具を守ろうとしたのか、両腕で包み込んだ。


「あっ!」


 思わず漏れた声と同時に、魔法道具からカチリと音が聞こえる。全員が身構えた。

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