66.ヴァレス聖王国の後始末

 王女が役に立たないなら、とジュアン公爵は自らの血統を主張し始めた。生まれを疑われる王女を盾にするより、王妹が降嫁した自分の方が確実だと判断したようだ。ある意味、正しい選択だった。


「最初からそうすればよかったのよ」


 私は溜め息を吐く。王女を引っ張り出すから話が拗れるの。肘をついた姿勢を、さり気なく注意される。セレーヌ叔母様は、私に注意した後……視線を伏せた。隣のユーグ叔父様が気遣わしげに叔母様の表情を窺う。


 セレーヌ叔母様に誘われ、四人で庭のガゼボでお茶を飲む。それぞれに特徴的な忠犬を連れて。


「シャル、このまま潰して構わないんだよな?」


 レオはそわそわしながら確認した。私に相談する前に、貴族に許可を出したのね? 悪い子だわ。ぺちりと頬を叩く仕草をした。困ったように眉尻を下げるから、おかしくなって笑ってしまった。


「任せるわ。でもあの子は見逃しなさい」


 言葉を濁しながら、王女は対象外と指示する。逃す先は私が心配する必要はないわ。どこかの貴族に悪用されなければいいだけ。そんなことは言わなくても理解する男だった。


「家族が一緒に暮らすのもいいさ」


 ユーグ叔父様の言葉に、レオは驚いた顔をした。私も正直、驚いたわ。あのユーグ・エナンがセレーヌ叔母様以外を気にするなんて。叔母様は知っていたように、くすくすと笑った。


「意外でしょう? でもこの人って昔からそうなの」


 子供が危険にさらされると助けようとする。何度もそんな場面を見てきた、と叔母様は教えてくれた。騎士の正義感とも違うようで、幼い頃に弟を失った経験のせいだろうと。叔母様があれこれ暴露しても、ユーグ叔父様は動かなかった。


 制止することもなく、けれど同意するでもなく。ただ無言を貫いた。レオは途中で興味を失ったようで、私の毛先を弄り始める。相変わらず、興味の向く先が限定される男ね。


「レオ、ちゃんと聞いて。あの子の行き先、理解した?」


「前王とそのバカ息子のところに置いてくればいいんだな」


「ふふっ、合ってるじゃない」


 私より先に叔母様が笑う。自分の元夫と、バカ呼ばわりされた息子。どちらももう関係ないと笑い飛ばす豪快さは、ルフォルらしいわ。


 王女の行く末は決まった。同時に、切り札を失くした愚かな公爵の未来も……。彼らをどう処分するか、ルフォルの貴族が決断する。私はもう関与しないわ。


 だって、民の生活を豊かにするのが王族の役割でしょう? 大公女である私は、同時にルフォルの姫でもあるの。


「奥様がお呼びです」


 呼びにきた執事に頷き、四人で囲んでいた円卓から立ち上がる。レオがさっと手を差し伸べ、私を支えた。きっと発掘した魔法道具の話ね。私の中で、すべてが切り替わっていく。滅びた国の後始末から、新しい暮らしに向けて――すべては、明るい未来を得る手段だった。

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