67.驚く土人形の魔法道具
「なんですの? これ」
「なんだと思う?」
魔法道具なのは間違いない。発掘を始めた遺跡は、海水を雨として降らせる魔法道具が出てきた。その知らせを受けて戻ったら、まだ発掘は続いていたの。
目の前にあるのは、両手で頭の上に輪を作る……不思議な土人形だった。形も変だけど、何かに驚いたような表情をしている。振っても中に何もない。両手で持たないと重くて落としそう。覗いても空洞なのに……。
「作動しないんですか?」
なんだと思うと聞くから、まだ動かしていないのだと思った。ところが、尋ねたお母様から意外な答えが返ってくる。
「作動したかどうか不明なの」
見た目は何も起きない。だが作動しているのだという。何も起きていないのに、どうして作動したと言い切れるのか。首を傾げた私から、お母様が土人形を回収した。かちりと音がして、人形の目が光る。
「……不気味ですね」
まさか、この赤い光の照明器具じゃないですよね? 顔を引き攣らせる私に、発掘した農民が胸を張る。
「きっと何か役立つと思うんすよ」
発掘したのは、雨の魔法道具の隣だという。関係があるのでは? と並べて作動させてみた。塩水を使う雨なので、海辺へ移動する。
「降らせるのは少しよ」
「塩害の心配があるものね」
いくら港でも、地上に海水を降らせる時間は短い方がいい。そう思った私の上に、大粒の雨が降ってきた。もっと小雨がいいんだけど……顔を上げて気づいた。
「海水じゃ、ないわ」
「あら、本当」
お母様も驚いた様子で、手を伸ばして雨に触れる。お母様、ご自分だけ傘を差すなんてずるいわ。濡れながら睨んでしまった。顔に当たった水がしょっぱくないし、目に沁みない。
「この土人形、塩抜きみたい」
「でも塩抜きの魔法道具があるなら、どうして本国の山は塩水を降らせたのかしらね」
うーんと唸ったが、そもそもご先祖様の考えなんて理解できない。必要に駆られて作り、作動させている間に起きた問題を、別の魔道具で対応したのかも。興味があることには注力するけれど、それ以外はどうでもいい。
レオやユーグ叔父様に共通の、あの感覚の元祖だもの。レオ達は先祖返り、つまりご先祖様に似たのだから。
ぎゃおぉ! 水色のドラゴンが興奮して飛び回り、追いかけたリュシーが吠える。わんっ! やっぱり鳴き声が犬よね。私が犬に憧れたせいだわ。ぐっしょりと濡れた毛皮のせいで、ほっそりしたリュシーに手を振り、私は肩をすくめた。
何にしろ、同時に作動させたら本国は塩害なしで雨を得られる。量を調整しながら、上手に潤さないとね。
小さなくしゃみが口をつき、私は慌てて魔法道具を停止させた。いくら海水じゃなくても、この雨は冷たいわ。レオをお遣いに出したタイミングで、風邪でも引いたら……ぞっとする。
閉じ込められちゃうわ。慌てて屋敷に戻り、体を温める。ホットミルクを飲んで、もう一つくしゃみをした。
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