27.こちらが終われば本国を

 離婚? 怪訝な顔をするアシル王に、私は静かに説明を始めた。こういう阿呆には、噛み砕いて理解させなくては、ね。


 王妃は実家に帰っただけ。そう認識していたのでしょう? 叔母様の話から、私は先を読んで動いた。ルフォルの貴族に、大急ぎで離婚の手続きを進めさせたの。


「王宮からお戻りになった時点で、セレスティーヌ・ル・フォール様は一族の姫に戻っていますわ。離婚の手続きは滞りなく進み、問題なく受理されて届出もされています」


 神に愛を誓った証拠として、婚姻の書類が届けられる。王宮に待機した文官が受け取り、受理の印を押してから辞職したはずだった。本当は離婚届だけでいいのだけれど、言いがかりの余地を残すのも腹立たしいわ。


 叔母様はこのヴァレス聖王国内においても、離婚が成立して再婚なさったの。ルフォルだったら、離婚後一年間は再婚できない。その意味では、ヴァレス聖王国内で結婚式をすることに意味があるわ。


 他国で結婚していれば、叔母様は既婚者だった。二度と本国に利用させない。その意思表示も兼ねて、事前に根回しは済んでいた。当然でしょう。それだけの長い年月、叔母様は苦労なさったし、私も拘束されたのだから。


「民のいない王など、砂漠の黄金ですわ。お戻りになって、砂漠で枯れ果ててくださいな」


「シャルリーヌお嬢様、勝手に処分されては困ります。我が姫は、僕に処分を任せると仰せでした」


 にっこり笑うユーグ叔父様が、処分とか……恐ろしい単語を口にしたのだけれど。セレーヌ叔母様の表情を窺うと、軽く首を横に振っている。別に許可は与えていないのね。


「エナン様、勝手に処分されては困りますぞ。我らにも権利がございますゆえ」


 本来の主人でもない王に、長年仕えた鬱積を晴らすとき! ル・ノーブル伯爵の発言に、周囲の貴族も頷く。なんてことかしら、一人しかいないのに大人気じゃないの。


 布を詰められた口でふごふごと騒ぐ王様は、もう臣下も民もいない。街の住人は国を捨てて逃げた。その動きを察して、まともな貴族も後を追った。残っているのは、情報に疎く逃げ場のない愚者のみ。


 愚者の代表である王アシルを眺め、私はぱちんと扇を鳴らした。


「ではこういたしましょう。ユーグ叔父様はセレーヌ叔母様の警護、ル・ノーブル伯爵を含む皆様には……この愚か者を進呈いたしますわ。結婚式の引き出物になさって」


 持ち帰って好きに調理していい。許可を与えられたことで、貴族はわっと盛り上がった。数ヶ月は手を出さずに幽閉する案が浮上し、ひとまず会場から引きずり出された。アシル王に会うのは、これが最後であってほしいわ。


「シャル、そんな決断は義父上に任せればよかったのに」


「あちらでお母様と仲良くしていらっしゃるのに、邪魔をするのは嫌よ。恨まれてしまうわ」


 レオにもたれかかりながら、甘えるように見上げる。額と頬に口付けをもらい、私は甘い吐息を漏らした。最後に唇が重なる。


 この国の処分が終わったら、次は本国ね。私や叔母様に苦労を強いた伯父様を許す気はない。貴族の政略結婚は理解するけれど、支援や監視も必要だわ。最低限の扱いを保証されない政略結婚は、ただの奴隷契約だもの。そのツケは伯父様に払っていただきましょう。

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