第69話

「んだよこれ――うりゃぁ!」

 頭部に山のようなタンコブを作ったシンは、宝石化した自宅の玄関を蹴破った。ボコっと音を立てて、扉が粉々に砕け散る。

「……へぇ、今はこんなになってんのか」

 リビングへ続く通路は、外同様にツルツルとした表面をしている。

 シンは足を取られないようにしながら、散策をする。

 そして、寝室にて両親を見つけた。宝石の中でぐっすりと寝ているようだ。

「父ちゃん……母ちゃん――じゃあな」

 寝室を後にするシンは、姉の姿を確認するため歩き回る。

 すると、外からマリアが声をかける。

「シン! もうすぐ封鎖が再開されるぞ!」

「おう! ちょっと待ってくれ。ねぇちゃんがいないんだよ~」

 姉の自室。リビング。トイレ。バスルーム。どこを探してもそれらしい姿はない。

「どこ行ったんだ。……あれか? 別都市でいい男でも捕まえたのか?――うんうん、そうだ! そう言えば、玄関に靴なかったし? 彼氏の部屋でお泊りってか?」

 シンは姉の自室に入り、改めて見回す。生活の痕跡は何もなかった。

「なんか荷物もなさそうだし? ねえちゃんは別の場所にいんだろ」

 心配事が一つ消えたシンは、マリアと共に自宅を後にする。

「家族には会えたか?」

「ありがとう。お陰で、色々と考えられたよ」

「考え?」

 マリアとシンは都市外へと向けて歩き出す。

「……オレさ、父ちゃんと母ちゃんが怖かったんだよ。オレのせいで、迷惑かけたし、当時は恨んだりもしたんだ」

「……そうか」

「でもさ!」

 マリアは会話の流れとは似つかわしくないシンの明るい声に顔を上げる。シンは、朝日のようなさわやかな笑顔を浮かべていた。

「あの二人は、オレの選択の責任を負ってくれてたんだ。周りから何言われても働いた父ちゃん。見栄っ張りなのに悪口に負けなかった母ちゃん。二人のおかげでオレはここまで大きくなれた。恨むなんてとんでもなかった。オレが苦しんだことを、二人は何年も背負っていたんだって気が付いたよ」

「……頑張ったな」

「……そうかもな。でも、まだやることはある。まずは、ダミちゃんとエマちゃんに謝りたい。それに、ゼドについて調べないといけない。そんで、アクセサリウスを元に戻す。こんなにいっぱいあるな。もっと頑張らないと」

 シンは、地平線から昇る太陽の光を全身で受け止める。

「私も一緒に謝ろうか?」

「いんや。気持ちだけ受け取っておくよ。責任はオレにある。だから、許してもらえないかも知れないし、騎士団には戻れないかもしれない。でも、精一杯謝るさ」

「ふっ、そうか」

「おう! ――ほら、ヘルメット!」

 シンは、バイクにまたがるとマリアにヘルメットを放り投げる。

「あの時とは逆だな。安全運転で頼むぞ?」

「任せとけって――いくぜ、ロザリア」

 シンのバイクから、赤い光が漏れ出すとそのままふわりと浮上。塞がれようとしている結界の穴を通り抜けると、上空へ踊り出た。

「謝ったら許してくれるかな……」

「ふっ、大丈夫さ」

 伝説の聖獣フェニックスと見紛うような赤い輝きを纏うバイクは、荒野上空を縦横無尽に飛び回っていく。

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