第66話

『ここで負ければ、アクセサリウスは戻らない』

 否定するように、シンの右手に力がこもる。

『ここで負ければ、アナタの安寧の場所は手に入らない』

 否定するように、マリアの左手に力がこもる。

『二人なら、なんだって出来るのでしょう?』

 ロザリアの発破にこたえるべく、両者雄たけびを上げ、最後の力を放出する。

「シン――もっとだぁぁぁ!」

「マリアこそぉぉぉぉぉ!」

 すると、シンの右手がマリアの左手同様に氷に包まれた。腕先から肘にかけて、皮膚の表面を覆うような封印中が含まれた氷の籠手のようだ。

 変化はそれだけではない。

 重なる両手から紅蓮の炎が出現した。大きさはシンたちと同等。熱量は今までの比ではない。炎はその場に留まらず、二人の腕を伝い、氷の籠手を包み込んだ。

 極大の炎の塊からは、マリアの力の象徴である青いスパークが弾けている。

 二人の間に言葉は不要。今ならば、重なった手を通して想いが伝わる。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁああぁあx!」

 新たに生まれた炎の塊をソルが放ったエネルギー弾に押し付ける。

 全ての体重を前方に預け、一歩、一歩駆け出していく。そうしていくと、マリアの封印術が作用を始め、炎の周囲を凍りつかせていく。

(まだだ……)

(もっとだ……)

 力の均衡は、二人に傾きだした。

 マリア個人が放つ封印の力などたかが知れているが、シンとロザリアの力を合わせることで、ソルが放つ極大の光線を瞬間凍結することが可能となったのだ。

 そして、全力で駆け出した。目標は、この向こうにいるであろうソル。

「……そうか……」

 ソルは放ったエネルギーの向こうで起きている現象を理解した。

 全ての力を使い果たし、攻撃手段を失ったソルは、負けを悟ったのだ。

「……君たちの」

 二人の重なる両手に生まれた輝きが、黒いエネルギーを喰い破った。

「これでぇぇぇぇえぇぇぇ」

 二人の雄たけびが重なる。

「――君たちの、勝ちだ」

 炎の塊がソルを飲み込んだ。

 激突の威力は計り知れない。絶大な推進力と爆発を伴い、ソルは吹き飛ばされた。

(……あぁ、これで……)

 意識を手放しながら、遥か後方へ消えていくソル。

 しかし、その身体は地面に叩きつけられることはなかった。暖かく柔らかい感触が受け止めたのだ。

 視界はかすみ、明暗程度しか判別できないが、自身を包む感触をソルは知っている。

「……オクタビア、負けちゃった……っははは」

「もう、笑い事じゃないわよ」

 ソルの艶やかな髪を優しくなでる。オクタビアの瞳は潤み、声も震えていた。

「……でもさ、でもさ……ちゃんと、仕事した……よね」

 言葉が徐々にたどたどしくなっていく。

「えぇ、えぇ。勿論よ。全て完璧。本当に……本当に頑張ったわね」

「えっへっへ……でしょ?」

 ソルは、無邪気な笑みを浮かべた。

 そして、

「 ……ねえ、また、あえる……かな?」

「私たちは永遠不滅。必ず、必ず会える。次は、約束の場所マドリ―で必ず」

「……みどりのおか……ゼドと……みんなと……ちょっと眠るよ……おやすみ……」

 ソルの瞼がゆっくりと閉じていく。

「えぇ、おやすみなさい」

 オクタビア。王様。ゼド。三人と見た王都の景色を思い出しながら、ソルの身体は黒い粒子となり、天へと昇っていった。

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