第65話

 経験不足。戦士として未熟。力の配分など考えられず、こうして手をつながなければいけない。そんな二人だからこそ生まれるものがある。

「全てを燃やす炎の力――紅口白牙」

 シンの右腕から放たれた赤い業火。

「全てを封じる氷の力――封凍葛」

 マリアの左手から放たれた青いスパーク。

 各々の必殺技を重ね合わせ、

「――行くぞ」

「おう」

 姿を消した。

 対するソルは慌てることなく、背後の巨人に指示を出す。

「地を鳴らせ!」

 巨人の拳が地面に沈む。ソルを中心に広がる衝撃波は、地面に触れるものすべてを揺らす。

「足が速いようだけどそれだけさ――嫌疑(チャージ)」

 執行官に嫌疑を掛けられた者は否が応でも足を止めなければいけない。それが、この場のルールなのだ。

 そして、シンとマリアが姿を現した。

 高速での接近による不意打ちは阻まれ、逆に、獣のように体勢を低く保つことを余儀なくされたようだ。未だ二人は手を重ねている。未だ淡く輝いているだけだ。圧倒的に時間が足りない。

 その隙をソルは見逃さない。

「出頭(アピアランス)」

 右手から生み出した小さな黒いエネルギー体を正面に放つ。それは、執行官による対象者を強制吸引、拘束を行う極小のブラックホールを用いた強制出頭命令だ。

 そして、次の行動へ繋がる。

 ソルの正面に吸いよせられた対象に向けて、巨人が両手を掲げ刑の執行へと移行を始めた。

「これで終わりさ――」

 巨人の両手から生まれる黒い輝き。ソルの両手に生まれる黒い輝き。ソルの両角から生まれる赤い輝き。この三つの砲台が稲妻のようなエネルギーによって繋がった。

「――判決(デシート)有罪(ギルティ)」

 反論の余地を許さない執行官の強制有罪命令が下る。

 三つの砲台から放たれたエネルギーは重なり混ざり、一つになる。視界に入れるだけで死を連想するほどの高威力。

「っくそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「はぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 シンとマリアは、重ねた手を突き出し立ち向かう。

(なんつー威力だよ!?)

(上手くいくとは思っていなかったが……ここまで手玉に取られるか!?)

 二人は押し返そうと、力を振り絞るが異形の戦士が放つ必殺技とも言うべき物は受け止めきれない。

 炎を天高く噴出しようが、氷で凍らせようがそれは止まらない。

 それどころか、ソルは次なる手段で二人の命を確実に終わらせる選択をした。

「これが僕の! 最後の大花火だぁぁぁぁぁぁぁ――強制執行(エグゼキューション)!!!」

 ソルは、背後の巨人を超高密度のエネルギー光線へと変換し、二人へ向かって打ち出した。

 僅かな時間差で訪れる二つの光線。

 一つでも押し返せないのなら、二つ目は文字通り死を意味するだろう。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「あぁああああああああああ!!」

 いくら苦渋の表情を浮かべても、光線の勢いは止まらない。

 片手では抑えきれず両手を使う。両手では抑えきれず、全身を使う。

 それでも止まらない。

 力の強さは信念の強さ。ソルの想いの大きさを今この瞬間も感じ取っているシンとマリアは、激痛と同時に感嘆すら覚えていた。

 ソルは命を捨ててまでもやるべきことのために戦っている。対する自分はどうなんだと自問自答をしてしまうほどだ。

 戦場での考え事は死に直結する。それでも、二人は考えてしまった。

 抑える力が弱まり、二人ではもう数秒も耐えきれないだろう。

 しかし、戦っているのはシンとマリアだけではない。

 もう一人、シンには相棒がいる。

『ソルが命を投げ打っているのなら、負けても仕方がないと?』

 ロザリアが問いかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る