第62話

一瞬の静寂が訪れた。

 粒子状になり空へと昇るエネルギー弾だったもの。

 その向こうには、右手に白い炎を灯すシンがいた。

「ロザリアと契約したんだね」

「焰炎天覆(えんえんてんがい)・紅口白牙(こうこうはくが)。これが、オレとロザリアが一つになった力だ」

 シンが放つ威圧感が以前より増している。常に周囲に発生している火の粉は、まるでフェニックスがそこにいるかのようだ。

「人魔一体。後悔はあるかい?」

「ない。オレは本気でお前と戦う。アクセサリウスの崩壊を止めて元に戻すって、そう選んだ」

 僅かな揺らぎすらもない。

 シンの真っすぐな言葉を聞き、ソルは穏やかに微笑んだ。

「よかったよ。それなら心置きなく――」

 ソルの姿が掻き消えた。

 次の瞬間、

「――殺せる」

 シンの前方に出現したソル。凶悪な笑みを浮かべながら、手刀をシンの首へ伸ばす。人間では反応不可の高速の一撃だ。

 ソルは、手刀の行方を目で追っている

(完璧だ……不意打ちのこのタイミングなら――)

 ソルの爪先が、シンの皮膚へ到達し突き破ろうとする。

 しかし、

「ッ!? ――ロザリアの入れ知恵かッ!?」

 ソルの全方位を取り囲む複数の炎の鳥に気が付いた。それぞれが放つ殺気は千載一遇の機会を見送るほどに凶悪だった。

 誘い出されたことを察知したソルは、大きく後退を選択した。

 それが、シンたちの攻勢の合図となる。

『ソルは遠距離から様子を見るはずです。相手をするなら――』

「接近戦。それも、隙を与えないインファイトか」

 ロザリアの指示の元、シンは駆け出す。

『シン、覚悟は?』

「大丈夫だ」

 前傾姿勢で駆けるシンの身体が炎に変化する。地上に生まれた炎の軌跡は、ソルの正面で停止した。

 炎が再びシンの姿に戻ると、右腕は白い炎に包まれていた。

「――白牙(びゃくが)ぁぁぁぁ」

「ぐふッ!?」

 余りの速さに対処は叶わず、ソルは血をまき散らしながら地面を転がっていく。

 そして気が付いた。

 高速で回る視界がいつの間にか紅蓮に染まっていたことに。それが意味することは、

「炎天(えんてん)――」

 シンが更なる攻勢に出た。

 地面に転がるソルに追従するシンは、巨大な紅蓮の炎を発生させる。それは、ソルの視界を埋め尽くすほどに広がっていた。

 そして、炎の翼を広げたシンの右手から、

「――白牙あぁぁあぁぁぁぁ!!!」

 特大の牙が放たれた。

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