第61話

 ソルが放った極大のエネルギー弾。それに対抗する術をマリアは持っていない。

(私はここまでか……)

 しかし、マリアの遥か後方に飛来する影があった。

「ロザリアッ! あの技使うぞ!」

 それは炎の塊であり、地面すれすれを飛行している。

『出力は三割。一点のみに集中してください』

「おう」

 マリアは、この時になってようやく気が付いた。背後に出現していた炎の柱が消えていたことに。

(まさかッ!?)

 マリアは、甲高い風切り音を聞いた。

 そして、 

「――ありがとう」

 マリアの隣をシンが駆け抜けた。

「シンッ!?」

 マリアの世界が止まった。

 低い空を大地のように駆け抜ける炎を纏うシン。余りの速さに表情は伺い知れないが、その姿を見れば、変化は容易に分かる。

 迷いなく戦うことを選んだ心が、真っすぐな背中に現れていた。

(……スゴイよシン。……先に行ったつもりが、また追い越されてしまった……)

 シンの腕に走る赤い幾何学模様。陽炎のように歪む身体の輪郭。彼の周囲に舞う眩い赤い火の粉。その全てが、シンの進化の証だ。

(だから……だから……)

「待っていろ、直ぐに追いつく」

「――あぁ」

 シンの呟きは、風と共に消えていく。

「ソルの奴、あんなこと出来たのか……」

『おや? 戦意喪失しましたか?』

「ちげーよ。オレはアイツのこと、全然知らないんだなって思っただけだ。だからといって、手は抜かない。いや、そんな余裕はねぇからな」

 シンの右手が変化を始めた。轟轟と燃えるオレンジ色の炎になったかと思うと、徐々に白色に染まっていく。

 右目がフェニックスと同様の鷹を思わせる瞳に変化した時、ソルが放つ極大のエネルギー弾と相対する。

 前傾姿勢を取り大きく跳躍、右手を引き絞り、白く燃える拳を叩きつける。

 それこそ、初代王都騎士団ロザリアフェニックスが使用していた必殺の技。

「はぁぁぁぁぁぁ――白牙(びゃくが)ぁぁぁぁぁぁ!」

 白炎は直線状に放射され、パンチの衝撃と共に黒いエネルギーと衝突した。

 しかし、それは一瞬のこと。

 シンが放つ白く炎がソルの攻撃を貫いた。それは言葉通りの白い牙のようだった。

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