第60話

 ロザリアはシンに問いかける。

『選択をした。覚悟もした。ならば、最後に問いを投げましょう。私が契約者に求めることは誠実さと献身。アナタはそれを持ち合わせていますか?』

 覚悟を決めたシンを惑わす幻想はもう存在しない。周囲は炎環による炎の壁のみ。

 その主であるロザリアは、シンと同様に両目に力強い意思を宿していた。

「いいや、オレはその二つは持ってない。オレは目標とする親友を傷つけたバカ野郎だ。……だけどッ!」

 シンは、握りこぶしを作り、ロザリアの瞳を真っすぐ見つめる。

「我儘なこと言ってるのは重々承知だ。だけど、オレは力が欲しい」

『何を成すために?』

「アクセサリウスを元に戻すため。そして、親友に胸張れるような男になるためにッ! オレは、マリアと一緒にいたいッ! そして、王都にも居たいッ! アクセサリウスは絶対に元に戻して、父さんと母さんと、本音で話さなくちゃイケないんだッ!」

 ロザリアは、表情を崩すことなく、

『アナタのそれは、ひどく欲望に塗れていますね――ですが』

 すると、薄紅色の唇が嬉しそうに歪む。

『初めて、シンの思いを言葉として聞きました。アナタは、欲しがりなんですね?』

「あぁ、オレは全部が欲しいんだ」

『シンは、王の生まれ変わりですか? そう思うほどに、似ています』

 ロザリアには、シンがかつての主と重なって見えているようだ。

 黒髪短髪。背丈は同じだが、シンよりも身体の線が太く筋肉質。肌は浅黒く、水の流れを現した入れ墨がある。しかし、意思を隠さない真っすぐな視線と纏う雰囲気は瓜二つ。

 ソルやライアンたちが感じたように、ロザリアもシンの中に王を感じた。

「そうか。アンタの王様に会ってみたいな。多分、気が合いそうだ」

『えぇ、絶対に――っと談笑をするのは、全てが終わってからにしましょう』

 ロザリアは、外部でソルが大技を放とうとしていることを察知した。

『これより、継承の儀を執り行います』

 シンを取り囲む世界が変わった。

 辺りは薄暗いが、この場所は王都と同様の石造りの建造物の中のようだ。

『これは夢幻ではありません。この場所は、私たち二十六人の原点。力の継承にはうってつけの場所なのです』

 シンは周囲を見渡す。

 人の気配はなく、この場所は祭壇のような厳かな雰囲気を放っている。シンは部屋の中心にいるようだ。周囲の壁には巨大な宝石が輝いている。その数は二十六個。

 すると、

『私たちが集められたということは、継承の儀……ですか』

その宝石の前に人影が出現していく。

『へぇ、次は誰の番なんだ? もしかして、私か?』

 角を持つ者。翼を持つ者。巨大な腕を持つ者。

『そんな訳があるか。中央の祭壇を見ろ、ロザリアがあの青年と契約するのだろう』

 全員の特徴はバラバラだ。なんの共通点があるのかはこれだけでは理解できない。

『始めましょう』

 正面から時計回りに数えて二十六番目、白髪の女性が杖を鳴らした。すると、緩んでいた空気がピリッと引き締まる。

 そして、

『私たち二十六人は、アナタを歓迎します。新たなる契約者、未来の希望』

 祭壇の周囲に発生したオレンジ色の炎が、この部屋全体を照らす。

 異形の特徴を持つ二十六人の姿が浮かび上がった。彼女たちは全員が上下黒の長袖、長ズボンという装いだ。全員が女性であり、中には見覚えのある人物がいる。ソルとオクタビア、そしてロザリアだ。そのいずれの人物も、現在よりも幼い印象を受ける。

『いずれくる天罰に備えるのです』

 白髪の女性は聖獣たちが刻まれた杖を掲げる。

『我が名はゼド。至上の魔法使いであり、二十六人の末席に座る者。待っていますよ、シン』

 マリアは、シンに紋章(クレスト)アクセサリーを渡した少女をゼドだと推測したが、正解だったようだ。

「ゼドってっ!? アンタがッ!?」

『ロザリアも、シンをイジメちゃだめですよ?』

 姿こそ違うが、シンとロザリアをめぐり合わせた少女がそこにいた。

 そして、二十六色の輝きがシンを包んだ。

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