第50話

シンがアクセサリウスへ向かっている最中。

 月光に照らされた王都の騎士団訓練場は騒がしくなっていた。

 ジリジリと何かが弾ける音が響き、青い輝きが明滅を繰り返していた。数秒置きに発生する光は、訓練場中央の人影を何度も照らす。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 血だらけの左腕に走る、規則的な青色の直線。

「違う……はぁ、はぁ……ッ、足りない……」

 光の発生源は、どうやら左手のようだ。地面に向けられた手の平から、血と青い稲妻が絶えず放たれている。空気を焼き焦がし、その形を変えようとすると霧散してしまう。

 光が止む。

「まだだ――こんなものでは追いつけない」

 額。左目。頬。口。暗闇に浮かぶ白い肌。

 光が止む。そして、光が放たれる。

 暗闇に浮かぶ血化粧をした女性、マリアだ。鬼のような形相を浮かべながら、左手に青いスパークを収束させようとしている。

「マリア。もう止めるんだ。それ以上は、私でも看過できん」

 エマが制止する声が聞こえていないのか、まだ訓練を続けている。

「マリア!!!」

「っ!?」

 聞いたことがないような、エマの鋭い声が飛ぶ。マリアも、驚き手を止めるほどだ。

「なぜ、シン君が一人で行ったのか分かるか?」

「……私に力が足りないからです」

 暗闇の中から、マリアの唸るような声が返ってくる。

 エマは眉をひそめると、

「違う。力など単なる要因の一つ。主たるものではない」

「それでは一体!?」

 勢いよく放たれた、苛立ちが籠ったマリアの問いかけ。エマは険しい表情を崩すことなく答える。

「シン君の決意だよ」

「……決意……」

「彼は、自分のせいでこうなったのだと思っている。それで納得している。だから、マリアを巻き込まないようにわざと乱暴な手段を使った。繋がりを切ればいいと、そう思ったんだろう」

「そんなこと……言ってくれれば……」

「マリア。お前にもあるだろう? 人に言えない、言いたくないことが?」

 マリアは、自分の胸に問いかける。

「シン君は、そんな形容することも難しい思いを抱え、それに従った。その方法は褒められるものではないが、彼の気持ちだけは尊重するべきだ。それだけは、決して否定してはいけない」

 暗闇の中、マリアは佇む。

「私の言いたくない……シンの気持ち……私にも……」

 マリアは、自らのスタート地点を思い出した。

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