第46話
赤く染まる月が照らすアクセサリウスは、不気味な紅蓮色に輝いていた。
「王様は〜なんでもかなえる最強漢! ゼドと王様を僕たちが~まもるぅ!」
都市全体に響く声の主はソルだ。無邪気に街を闊歩している。色づく街全体が、ソル専用の舞台装置のようだ。
ソルの目的地は、巨大な炭鉱だ。
「久しぶりだね……」
思い出に浸る様に山を眺めていると、背後にオクタビアが降り立った。
「準備は出来ているわ。後は、愛しのシン君がどうするかね」
「これから続く苦難の連続。その最初になるんだ。僕が言うのもなんだけど、後悔しないで欲しいよ」
無邪気な笑みとは裏腹の、酷く大人びた言葉だった。
「本当にアナタはいいの? もしかしたら、シン君が私たちと一緒に――」
「うぅん。シンなら別の道を選ぶよ。それにやることは変わらない。僕の力でここを……。だからさ、見ててよ! 王様の前でさ、でっかい花火を打ち上げてやるから!」
ソルの右手は、赤く染まる闇夜の月のような赤黒い輝きに包まれていた。
「はぁ……分かったわよ――命令します。ソル、死力を尽くして私たちの願望を成就しなさい」
オクタビアの命令を受けたソルに変化が起きる。右腕を包む赤黒い光が、より大きなものに増幅されたのだ。
「ありがとう」
「えぇ。あの人に魅せつけて上げなさいな」
オクタビアが風景に溶け込むようにふわりと消えた。
残ったのはソル一人。
「すぅ……」
大きく息を吸い込み、胸を膨らませると、
「王様ぁぁぁぁ! 観ていてくれよぉぉぉぉぉ! 僕の、このソルの生き様をぉぉぉぉぉ!――アクセサリウス、Sin(しん)の姿を現せぇぇぇぇぇぇ!」
ソルが水平方向に掲げた右指先から放たれた赤黒いスパーク。それは、鉱山に直撃すると、アクセサリウス全体へと駆け抜けていく。
すると、地鳴りのような轟音と共に、あちこちの宝石に包まれた地面が隆起を始めた。
時刻は深夜。
けたたましくなる端末に起こされ眠い目を擦るダミアン。伝えられた内容を聞くと、意識があっという間に覚醒した。
「はぁっ!? アクセサリウスが崩れ始めたぁぁ!?」
騎士団が動き出そうとしていた最中、王都の街並みを爆走するバイクがいた。
シンだ。
アクセサリウス崩壊をいち早く察知し、現場に急行していた。
それは騎士団の命令ではなく、独断によるものだ。
以前、王都で出会ったオクタビアからこうなることを聞かされていた。だからこそ、準備が間に合わなかったことに対する後悔があった。
(迷う暇なんてなかった。あの時から、ココを出ていれば――)
迷いを振り切るべく速度を上げる。流れる街並みから輪郭が消え、色が塗りつぶされようとしているときだ。
「なっ!?」
進行方向を塞ぐように、氷の柱が複数降り注ぐ。
「どこに行くつもりだ?」
氷の柱を背負うように、民家の屋根から人影が飛び降りた。
夜風よりも冷たい声。真夜中でもはっきりと視認できるほど明るい金髪をなびかせる長身の女性。
「……マリア」
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