第45話

 読書経験が浅いシンにとっては、図書館での歴史書との格闘は地獄そのもの。歴史の一端に触れるたびに、知らなければいけないことが倍に増える。限られた数時間はあっという間に過ぎていき、アクセサリウスを戻す方法は分からないまま。

 夜も更けたころ、ヘトヘトになり帰路につくと暴漢に襲われたこともあった。相手はシンが以前捉えた泥棒だった。復讐のためだったらしい。

 悪夢。慣れない調査。他人からの恨みと命のやり取り。これらの要因が重なった結果、シンの許容量を超えてしまった。

 爆発のきっかけは、マリアだった。

「シン。また夜遅くまで調べものか? そうだ、私も手伝おう。図書館以外にも資料は沢山所蔵されているんだ」

「あぁ……マリアも訓練頑張ってんだろ? ほら、そんな傷も作ってさ? 隈もすごい。ゆっくり休んでてくれぇ……オレもがんばっから……」

 疲れがピークに達したのか、シンは仕事中に舟をこいでしまった。マリアは何度もシンの肩をゆすり起こす。

「うおっ!?」

「シン。今日はもう帰って寝るんだ。いいか? 焦らずとも時間はある」

 シンの眉が痙攣をする。眠気と焦りでぼやけた思考が、一気に赤色に染まる。

「街を戻したい気持ちは分かるが――」

「ッ!?」

 マリアの言葉は、シンの健康を案じて言ったものだ。しかし、悪夢から覚めたばかりのシンのささくれ立った心を刺激してしまった。

「分かるはずがないだろう。……オレは早く街を戻さなきゃいけないんだッ!!」

 ――ダンッ!。

 両手を机に振り下ろし、苛立ちをぶつける。

「す、すまない。そんなつもりでは……」

 静まる騎士団本部。

 談笑していたダミアンやエマ、ばあさままでもがシンに視線を注ぐ。

 はっと我に返ったシンは、

「……ご、ごめんな。オ、オレさ? 寝起きがめっちゃ悪くてな? マリアは何も悪くないぞ! オレが仕事中に寝ちまったからな ……ちょっと外の空気吸ってくるな!」

 捲し立てるようにそういうと、シンは焦りを隠せないまま外に飛び出していった。

(……シン)

 彼はそれ以降、騎士団に姿を見せることはなかった。

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