第40話
朝から夕方まで騎士団の仕事。夕方から夜まで調べ物。シンは、この二つを繰り返す毎日を送っていた。
「おっす! 仕事してるか?」
「おっすじゃないって! なんだよこの量! 多すぎだろ! しかも報告期限が過ぎてるのあるじゃん!」
シンは疲労を回復しきれていないのか、少しのことで気が立ってしまうようだ。
「あれだ……ほら? 口頭で報告したから問題ない的な?」
「んじゃ、どれを処理すればいいか分かんねぇじゃんよ――うがぁぁぁぁ!」
ストレスで頭を抱えるシンの隣に座るマリアは、”その気持ち分かるぞ”と頷いている。
マリアは、昨日の件で多少の不満を持っていたが、朝、シンと顔を合わせればあっという間に解消してしまった。
「まぁ、叫びたくもなるだろう。事務が出来るのは私とシンのみ。実際に猫の手も借りているほどの人員不足。酷い環境だろう。なぁ、ばあ様?」
「んにゃぁぁ~お」
騎士団本部事務室には、書類を運び続けている猫がいる。その名は”ばあ様”。王都中の猫のまとめ役をしている最年長の女性らしい。ふてぶてしく、でっぷりとした丸い顔とフォルムが愛らしい。
「――んで、アクセサリウスの方はどうだったんだダミちゃん?」
「いんや、特警と捜査したが何も分からねぇ。やっぱり、術者本人に解かせるしかねだろ」
「う〜ん。そういや、こんな事件って解決したことあるよな。昨日、そんな記録を見た記憶が……」
マリアが答える。
「街全体が消えない業火に包まれた事件があった。その時は、ライアンが術者を殺害し、解かせたようだ」
ライアンの凶悪な大鎌が、シンの脳裏をよぎり、全身を震わせる。
「アイツなら……そっか。でもなぁ~」
「宝石化。住民の時間は停止している。悠長とはいかなくとも、慌てる必要はないだろう」
「……だな。……オレが爺さんにならなければな ――んじゃ、休憩してきますわ~」
シンはハニカミながら冗談を飛ばすと、外に出ていった。
その様子を見ていた、ダミアンとマリアは訝しげに眉をひそめた。
「やっぱり、シンちゃんの様子おかしいよな?」
「……不謹慎だっただろうか。いや、そうに違いない。シンはみんなと早く会いたい筈なのに。――はっ!? 私はなんて愚かなことを……」
マリアは頭を抱え、机に突っ伏す。書類の山は音を立て、崩れていく。
「……あれなら、詫びの品でも上げりゃシンちゃんなら――」
「そうだ!」
書類の山からパッと笑顔を浮かべたマリアの顔が出現した。
「肉だ! 肉をお詫びの品として渡せば許してくれるかもしれない! そうだ、そうだ! シンならば!」
マリアは財布を取り出すと中身を確認。何度もうなずくと嬉しそうに外出の準備を始める。
「ボスすみませんが、私も少し休憩を頂きます!」
「お前ら、ホントに仲いいな。なんだ、もう恋人になったのか?」
ダミアンは冗談めかしてそう言うと、
「恋人か……確かにそれも悪くないかもな。シンといると本音で話せる。いや……それよりもっと的確な表現が――そうだ! 姉弟だ!」
マリアの言わんとすることをダミアンは理解した。
「シンは手のかかる弟ってことか。んで、お前が甲斐甲斐しく世話するポンコツな姉と?」
「ポンコツかは定かではないが、手のかかる弟というのはその通りかと。 ――では!」
マリアはビシッと右手を上げると、颯爽と駆け出していった。
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