第39話
ある日の晩。
シンは、澄み切った夜空を見上げていた。
『綺麗な空ですね』
「あぁ。アクセサリウスでは見られなかったからな」
『鉱山開発のための排気ガスが凄まじかったですからね。利益の代償に捨てた夜空だったということです』
「あっちでは、夜空なんて見る暇がなかったかんな。代償を払ってたなんて気が付かなかった。――んで? 出てきたってことは、何かあるんだろ?」
シンの隣には、フェニックスが居た。窓枠から、美しい飾り羽を部屋の中へ垂らしている。
『何やらシンが落ち込んでいるようなので、慰めてあげようと』
「落ち込んでる……か。流石に分かる?」
シンの無邪気な笑顔も、フェニックスから見れば無理しているようにしか見えなかった。
『アナタは、些か自己嫌悪がすぎます。それならば、いつものような行き過ぎた楽観主義に浸っていたほうがよろしいかと?』
「だな……変に考えちゃうんだよな」
シンの言葉には感情がこもっていなかった。常に上の空といった様子だ。
その原因をフェニックスは知っていた。
『マリアさんについてですね』
「お見通し?」
『……交友関係は大事ですが、それに固執することはないのですよ?』
シンは、やっぱりなと呆れた表情を浮かべた。
「流石に年の功って奴だな。そりゃ、正論なんだろうけどよ。なんでか知らないが、マリアとは何でも言い合える。めっちゃ楽なんだよ。アイツの隣は、最高に居心地がいい」
『彼女の真っ直ぐさは、シンにとっても好ましい性質ですからね。なにより、外面を取り繕っていますが、内面はまだまだ子供。そんなところもそっくり。お似合いですよ』
「そりゃ嬉しい」
『そうやってなんでも達観しようとする所は正反対です。彼女から見れば、どんな時でも動じることなく乗り越えられる頼もしさに見えるでしょうが、それはアナタの最大の欠陥です』
「……姉ちゃんにしか言われてなかったのに。会ってからそんな時間たってないだろオレら?」
『過ごした時間の少なさと理解度に関連はないです。それは、シンとマリアさんの関係が証明しています』
シンは、マリアの名前が出るたびに表情を曇らせていく。
「なぁ、親友ってのは出来ればいいってもんじゃねぇな」
フェニックスは口を挟まず、シンの言葉をじっと聞く。
「アッチにいたころは友達なんて居なかった。だから、なんでも相談できる友達に憧れたりもした。でもよ、いい奴と会えたらさ――」
『彼女を失うことが怖くなったんですね。アナタという存在は、この世界でも希少。彼らだけでなく、他の人間からも狙われ、否が応でも争いごとに巻き込まれる。彼女を枷の様に思ってしまう。シンは、そんな自分が嫌なのですね?』
「……アンタすげ~な!?」
『なにせ、アナタと私は一心同体。これから共に飛び立つのですから』
シンはフェニックスの綺麗な毛並みを撫で、心を落ち着かせる。
「アンタと一つになったとき、色んなことが分かった。ソルたちとの戦いは避けられないだろうし、これからはもっといざこざが起こる。枷になってるのはオレの方なんだよ。オレがいたら、マリアをバカみたいなことに巻き込む」
『だから、バイクを融通してもらったんですね。一人で動けるように』
マリアが毎日小言を言うくらいには散らかっていたシンの部屋。それは昨日までのこと。無駄なものが一切なく、片隅にはバックが置かれていた。
まるで、旅立つ準備をしているようにも見えた。
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