第37話
「覚えているか? マリアが小さい頃は、指輪をくれとせがんでいたんだぞ?」
「はい。未だに鮮明に覚えていますよ。騎士団の白を象徴するようでしたから」
「そうだな。この指輪はエルにしか使いこなせないと言われている。これは持ち主を選ぶアクセサリーなんだ」
「選ぶ。それはまるでゼドの――」
「そうだな。宝石に紋様は浮かんでいないが、それに迫る物ではあるだろう」
マリアの視線は、いつの間にかケース越しの指輪に吸い込まれていた。
「……最近になり、この指輪の動きが活発になった。適合者の候補は複数いたがこの場に来て確信に変わった。エルの指輪はお前を待っていた」
「私を……父の指輪が……」
「エルを英雄にまで押し上げた全てを凍てつかせる氷の力。お前にコイツを御する覚悟はあるか?」
「……正直、父の様に扱える自信はありません」
自信を喪失しているマリアは、両こぶしを硬く握り、ぶつけ先のない力で全身を力強く振るわせるしかできない。
「エルは力と心、両方を合わせ持つ傑物だった。長いこと生きているが、アイツを超える人間は見たことがない。だがな? お前とそっくりだったぞ?」
マリアの表情は未だ晴れない。
「そんなこと……父はいつも笑顔で明るく、周囲の人間を引き付ける魅力があった。凛々しく、賢く、それでいて気が付いたらそこらで見ず知らずの人と酒盛りをしているような社交性もあった。……虚勢を張るしかできない私とは正反対ですよ」
マリアの消え入るような声を聞き、エマは呆れたように溜息を吐く。
「奴は冷静さを常に持ち、最善を考えて行動する。誰よりも他人を救いたいと思い、行動を起こす。奴の言葉に助けられた人間は多くいただろう。ピンチの時に奴は必ず助けに来た。私から見たマリアという騎士と同じだと思うが?」
「……そういって頂けるのはありがたいです。仮に、仮に……エマさんからそう見えているのなら、私が父の真似事をしているだけだと思います。私はまだ、父になれないです。友をを……助けることすら出来なかった」
「……そうか。ならば諦めるのか? ――と思ったがあちらは待てないようだな?」
「えっ!?」
すると、エルのアクセサリーが白く輝きだした。光りが止むと、マリアの左手にいつの間にか装着されていた。エルの指輪がマリアを持ち主として選んだのだろう。
「これには、エルを英雄せしめた技が記載されている。どうするかはマリアが選択しろ。腹が決まったら私のもとに来い」
エマは、マリア自身に考えさせるため、最後は突き放すような言葉を残し去っていく。
「……そうだ、あの時の誓いは嘘ではない。強くなるんだ。守るんだ……今度こそ」
マリアの瞳に強い意志が蘇った。
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