第34話

 ライアンとの一件があってから数日後。

 王都騎士団に変化があった。

「シン危ないから下がっていろ」

「だから! マリア一人で怪我したらどうすんだよ!」

「ったく。怪我するなよ」

 白い制服を着た男女二人が、王都の街を駆け抜ける光景が増えたのだ。

 ”マリアの相棒”。

 ”マリアの恋人”。

 ”長らくいなかった騎士団の新人”。

 などなど、様々な噂が流布されているが、当の本人たちは気にする様子はない。

「マリア様ぁ頑張ってください! ……ついでにシンも」

「オレはついでかよ!」

 すでに、マリアのファンにも知られているようで悪意マシマシの声援を受けるほど。

「シン、置いてくぞ」

「ちょま!?」

 風のように駆けるマリアに続けと、シンは全力疾走を開始。

 シンとマリアは、散歩中に発生した泥棒の犯人を追っていた。

「待てよ! 再犯するなっての!」

 以前、シンとマリアにより逮捕された男が、保釈後に再犯をしたようだ。ひったくった鞄はどこかに投げ捨て、既に逃走だけに全力を注いでいた。

 更に、犯人は学習する能力を持ち合わせていた。刃渡りの短いナイフを取り出すと、マリアに斬りかかる。

 対するマリアは、過去の経験からペンダントの力を使い拘束を試みるが、

「そんなナイフ――私の力で凍らせる!」

 白い袖から覗く銀の装飾が輝き、ナイフ全体が氷に覆われた。と思ったら、氷は砕け、拘束は叶わなかった。

「っ!?」

「こいつは特別製なんだよ!」

 マリアに生まれた致命的な隙は、素人だろうがナイフを振り下ろすことは可能だった。

 朝日に煌めく銀の刃を止めるすべをマリアは持っていない。

 しかし、マリアは一人ではない。

「オレはもう逃げねぇぞ」

 マリアの横から延びる右手がナイフの軌道を遮り、刃を力強く握りこんだ。

「っらぁ」

 凶器を抑えたシンは、左足で犯人を蹴り上げ意識を奪う。

 犯人は再び逮捕された。

 それを見送った二人は、騎士団本部へ帰還すると思いきや、シンは膝から崩れ落ちた。

 シンの右手は痛々しいほどの血で染まっていた。どうやら、ハンカチを握りこみ痛みをごまかしていたようだ。

「マリア……いってぇよぉ……これ……」

「はぁ……やせ我慢するんじゃない。ほら、見せてみろ」

「……やざじぐなぁぁあああぁぁぁぁ」

 シンは、王都騎士団の一員としての日常を送り始めていた。

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