第33話
「シン。お前には技がない。力だけじゃ、あの角のガキには勝てねぇぞ」
「ちょっと待て!? ソルを知ってるのか!?」
「あぁ? オレは嘘つきだぜ? 信じてもいいのかよ? ――行くぞ、キマイラ」
そういうと、ライアンは訓練場を後にする。
シンは去っていくライアンの隣に、陽炎のように揺らめくキマイラの姿を見た。
「アレが聖獣キマイラか」
すると、戦いの緊張感から解放されたシンは全身の力が抜けたのか、よろよろと地面に座り込んだ。
「シン!? 大丈夫か!?」
「あぁ〜ダメだ。オレ、めっちゃ疲れたわ~」
マリアは、へたり込んだシンの隣に座り込む。ぐったりとした彼の頭を自分の肩で支える。
「……ありがとう。シンのお陰で傷も治った」
「いいよぉ。ったく、全部ライアンが悪いだろって言いたいけど、何割かはオレのせいなんだ。アイツの言ってることも大体はあってたし……」
シンは、僅かに残る恥ずかしさを誤魔化すため、その辺の砂をいじりながらはにかむ。
「何も選んでこなかったんだ。オレさ、選ぶのが怖かったんだよ。間違うとさ、周りからいろいろ言われんじゃん? 子供の時から、それが嫌だったんだ」
「……そうだな。正直、私もそんな体験をしたら嫌いになっていただろう。否定されるのは、怖いものな?」
マリアも優しい笑みを浮かべる。
「でもさ、マリアが怪我するのって見ていて辛かった。それをどうにか出来るなら、暴力って手段をとってさ? これから先、どんな目にあってもいいってそう思った。今回のことがなければ、逃げ続けるだけだった。だから、その点だけはライアンに感謝してやってもいいな、うん。感謝してやる」
「……シンは強いな。私は正直、まだ前を向けそうにないよ」
「……マリア」
ライトに照らされたマリアの瞳は、涙で潤んでいた。
「誰が悪いのではない。私は私を許せそうにないんだ。守ると誓ったシンに守られ、ライアンに手も足も出なかった。……私は無力だった。多分、これから先も、無力のままだろう。……っふ、幻滅したか? 偉そうに講釈を垂れていた女が、今や君にも劣る存在さ?」
「バカ野郎!」
気力を失ったマリアの背中をシンが力強く叩く。
マリアはびくっと身体を震わせ、前髪の隙間から、おずおずとシンを覗く。
「ほんと、マリアは自分が見えてないな~」
シンはやれやれと肩をすくめる。その表情は、子供にマウントを取るガキ大将のようであり、マリアはムッと頬を膨らませた。
「そ、そんなことはない! 私は常に冷静に、客観的に状況を判断しているとも!」
「それじゃあさ? オレがどれだけ、マリアに助けられたかって見えてるか?」
「むっ……」
「アクセサリウスでも、ここでも。ピンチの時はいっつもマリアが居てくれた。前にさ、オレのこと明るいとか、羨ましいとか言ってくれたろ?」
「あぁ」
「そんな風に振舞えたのは、マリアが居てくれたからなんだよ。初めてのことが多くて、みんなが助かるか不安で、そんな時、マリアの言葉に救われてた。だからさ、マリア自身に知ってほしいんだよ、お前はスゴイって! オレが知る限り、二番目に強い奴だって!」
「二番目……一番は誰なんだ?」
「そりゃ、オレのねえちゃんだな」
「ふっ、それは光栄なことだ。ありがとう。シンの言葉、しかと心に刻んでおくよ」
「おう。刻め、刻め」
二人は胸に溜まったことを思い思いに吐き出していった。
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