第31話
(紅口白牙。それが奴の武器の名前……油断はねぇ)
ライアンは動かない。安易に行動すべき相手ではないと、理解しているからだ。
シンはそれを理解しているようで、敵に背中を見せながらゆうゆうとマリアの元へ向かう。
「……オレのせいで……ごめん」
膝を折り、地面を這うマリアを起こし謝罪の言葉を零す。
「違う。私が、シンを守れなかったんだ。……だから、戦うという選択をさせてしまった。痛かっただろう? もう、大丈夫なのか?」
「おう! ほら、元通りだ!」
シンの声、行動、表情。どれもがマリアがよく知るシンだった。マリアは心の底から安心した。シンが、強大な力を持ったことにより、ライアンのような凶暴な存在に変質するのではないかと思っていたからだ。
後方の壁に寄りかかるマリアは、安堵のおかげか、痛みが引いていくように感じた。
「マリア、オレに怪我を直させてくれ」
「……そんなことが出来るのか? 私としては、願ってもないが……」
「多分出来る。いや、出来ると思ったから、出来るんだと思う」
シンは、指輪を左手の中指で撫でる。
すると、宝石が淡く輝き、フェニックスが姿を現した。
「マリアの怪我を直してくれないか?」
シンの言葉に頷くと、彼女の周囲を旋回していく。そうしていくと、あっという間に、マリアの美しい肌が取り戻された。
両手両足を動かしても違和感がない。むしろ、訓練場に来る前よりも状態がいいかもしれない。
「……これが、指輪の力なのか」
マリアは人知を超えた力を直に感じて、改めて驚愕する。
「あぁ。こいつは――っとマリア。ちょっとだけ下がってくれ。アイツの我慢の限界みたいだ」
シンは鋭い視線を背後のライアンに飛ばす。
周囲は一気に暗くなった。代わりに訓練場を照らすのは、周囲に取り付けられた白色ライトだ。
地面に浮かぶ黒い三日月。 背丈を大きく上回る大鎌が、地面から引き抜かれ、刃にシンを映し出す。
「成りたてのくせして、結構じゃねぇの。お前、名前は?」
「……シン。アンタは?」
「ライアンだ。よぉく覚えておけよ――シン」
ライアンは大鎌を振り下ろし、不可視の刃でシンを襲う。
さっきまでは、思い込みと身体能力だけで動いていた。今は、シンだけではない。故に、攻撃は受けない。
「――っはぁ!」
シンは眼前を殴るように右腕を振った。すると、その軌跡から炎が生まれ、目の前に壁を作った。
すると、業火を突き破ろうと幾重にも刃の跡が刻まれる。しかし、そのどれもがシンの防壁を突破することが出来なかった。これは通常の炎ではなく、聖獣が生み出した守る意思を宿した炎。同じ紋章(クレスト)だとしても容易に破ることはできない。
「いいねぇ、いいねぇぇぇぇ!」
その事実は、ライアンを更に奮い立たせる。
「出せよ、お前だけの武器をよぉ? そこまで理解できてるなら、その先にも踏み入ったはずだ」
ライアンが言う通り、紋章として刻まれた聖獣との対話により、シンの性質と願望を武器とすることが可能だ。
しかし、シンは首を横に振り否定する。
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