第20話
「これか? もう何年も前に貰ったんだ。これも、マリアのみたいに爆発を生むことができるんだっけか?」
「あぁ。しかも、宝石持ち(ジュエル)のようだ」
「ジュエル……宝石ってことか。何でできてんだろうな? 赤だから、ルビーとか?」
「実は、宝石が何であるのかはさして重要ではない。宝石を持っている事実が重要なんだ」
「事実?」
マリアは、シンが広げている資料をめくる。
そのページには、色とりどりの宝石がはめ込まれたアクセサリーが能力別に記載されている。
「前提として、アクセサリーには二種類ある。私が持っている最もありふれたアクセサリー、銀(シルバー)。その指輪のように宝石を持つジュエルだ」
シンは自分の指輪をマジマジと眺める。
「シルバーは約千個、ジュエルは約百個。その希少性は分かるだろう?」
「数が少ないってだけだろ?」
「ふっ、そうでもないさ。宝石はいわば力の増幅器の役割を持っている。部屋を一瞬で凍らせたこのペンダントに、仮に宝石が存在していた場合、その規模は王都の約二割に及ぶだろう」
「段違いじゃねえかよ!?」
王都の全体面積は他都市と比べると小さい部類に入るが、それでもこの部屋の何億倍の規模になるだろう。それを一人で制圧できるのならば、どんな現代兵器よりも効率がいいものになるだろう。
「宝石(ジュエル)は大砲だ。扱いきれなければ自滅は必至。対して銀(シルバー)は小銃。練度はさほど必要なく、一人で複数扱うことも現実的だろう」
「使い方はそいつの適正次第ってことか。……これが大砲ねぇ」
その言葉が信じられないのか、うんうんと唸っている。
そんなシンをみて、マリアは安心しろと微笑む。
「安心してくれ。その規模に影響を与えるには相応の訓練が必要だ。くしゃみの拍子で暴発などは起こりえない。道具が優れていても……という奴さ」
「どうするよ? 何かの拍子に爆破しちゃうとかだったらさ~」
シンは自身の呼び輪と似たものがないか、資料をパラパラとめくっていく。
「どうだ? 見つかったか?」
「いんや〜。見つからないわ~」
「シンは探すのが下手だな。ほら、もう最後のほうじゃないか」
図鑑をめくる子供を眺める母親の様に、マリアは心穏やかにシンを見守っていた。
すると、シンが手を止めた。何度も何度も資料と指輪を見比べると、笑顔を浮かべる。
「これかぁ? う~ん……模様だけでなんも書いてないけど、マリアあったぞ!」
「模様だけ? ……何を言ってるんだ?」
マリアは怪訝な顔をしながら、シンが開く資料を身を乗り出して覗き込む。
そのページには、黒色の両翼を広げた鳥の紋章が描かれていた。
紋章の名はフェニックス。
「そう、オレさフェニックスにあったんだよ! そうだよ、多分、これだよ!」
「何を言っているんだ? フェニックスに出会うことなどありえないだろ?」
「いや! いやいやマジで!!!」
「イヤイヤ、イヤイヤ」
マリアは肩をすくめて否定する。
「いやいやいやいや」
「イヤイヤ、イヤイヤ」
否定の繰り返しだ。
「いやいやいやいや!!」
「イヤイヤ、イヤイヤ」
「キィー、キュルルル」
マリアの後に続き、鳥の鳴き声が聞こえた。
「イヤイヤ――え?」
二人は顔を見合わせ、声のする方へゆっくりと視線を向ける。
「キュルルル、キィー!」
甲高い鳴き声を上げる燃える身体を持つ美しい鳥が窓枠に佇んでいた。
「あ、ほら。フェニックスいただろ?」
「なっ!? な、なななな――ぬぁんだとぉぉぉぉぉ!?」
マリアの絶叫が会議室にこだました。
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