第13話
黒いネイキッドバイクが巻き上げた土煙が、乾いた荒野に直線を引く。車輪が砂をかき分け白く硬質な大地を露出させながら進む。
そのバイクに乗っているのは、マリアとシンだ。
「なぁ! 運転変わろうか!」
マリアの腰にしがみつくシンは、ヘルメット越しでも聞こえるように声を張り上げる。
「ありがとう、大丈夫さ! それより、ここから悪路が続く! 振り落とされないように捕まっていてくれよ!」
「マジかよ――うぉっ!?」
バイクが、上下左右に激しく揺れる。硬質な地面は凸凹が激しいだけでなく、大小さまざまな石が転がっている。
「ちょ、ちょ!? マリアァァ!? 速度落とすのはどうよ!? 急いで怪我するんじゃ世話ないって!」
「それは無理だ。後ろを見てみろ――そろそろ出てくる筈だ」
シンは、流れる風を裂くようにゆっくりと後方を確認する。
「っ!?」
すると、バイクの後を追うように黒い波が迫って来た。その速度はとても早く、少しでもスピードを落とせば飲み込まれてしまいそうだ。
「アレは”うねり”と呼んでいるが、本当のところは何と呼べばいいのか。原因不明の現象とでも思ってくれ」
「冷静!?」
「といっても、この速度のまま走り抜ければ追いつかれることはない。さして気にする必要はないのさ」
「マリアが言うなら……まぁ……」
シンは安堵しつつも、後ろを気にしていた。
暫くすると、うねりが徐々に迫ってきていることに気が付いた。
「なぁ、マリア。スピード落ちてないか? ちょっと、うねりが――」
「大丈夫だ。速度計も一定のまま。多分、見間違いだろう」
「お~う……」
シンは、モヤモヤを抱えながら、やっぱり後方を見る。
「マリア~」
「なんだ?」
「やっぱりさ、うねり、近づいてるって」
「はっははは、シンは心配性だな? あ、今のはダジャレじゃないぞ? ほら、見るがいい。速度計は変わらず五十を維持している」
シンは、マリアの肩越しに速度メーターを確認。マリアの言う通り変化はない。
「うん? ……ちょっと、速度上げてみ?」
「いいぞ」
マリアは速度を上げた。唸るエンジン音、後方のうねりから僅かに遠ざかった。速度は上昇しているようだ。
しかし、メーターに変化はなかった。
「……うん?」
「お?」
二人は”おかしいぞ”と眉をひそめた。
マリアはもう一度、アクセルを上げる。やはりメーターに変化はない。
「おや?」
「おぉ?」
試しに速度を下げてみた。うねりとの距離は近くなり、メーターに変化はない。
「つまりはこのメーターは壊れているな!」
マリアは、後ろで不安がるシンの気を誤魔化すべく、キリっとかっこいい笑みを浮かべた。
「……おぉ」
その言葉には、あり得ないほどの不安が込められているとマリアは読み取った。
「……シン、大丈夫だ。安心してくれ。基準となる速度は分からないが、いつも以上の速度を維持していれば巻き込まれることはない。地面も平坦になってきただろう? 王都が近い証拠さ。私たちは速度だけ注意しておけば問題ない」
早口でまくし立てるが、シンのリアクションはない。
「どうしたシン? 何かあったのか? 流石に一人でしゃべり続けるのは寂しいんだが?」
「いやぁ……これって”デル・シエロ製”だよな?」
「あぁ、それが?」
「いつだかのニュースで見たんだがよ……デルシエロのバイクって不具合?が出るらしいぜ」
「……どんな不具合だ?」
「全体設計に問題があったようでな? 二年くらい使い込むとエンジンがダメになるらしい。んで、その兆候が速度メーターが動かなくなる不具合として出るらしい」
「っはっはは。エンジンの不調が速度メーターに出るのか? 別物も別物じゃないか! こんな時に冗談をいうとは!」
「……マリア。さっきからさ、流れる景色がゆっくりになってないか?」
シンの言う通り、先ほどまで塗りつぶされていた茶色の景色がぼんやりと視えてきた。まるで”バイクの速度が落ちている”ようだ。
「……っはは」
乾いた笑いが思わず出た。目をまん丸にして、口はあんぐりと空いている。辛うじて笑みを浮かべているが、感情は抜け落ちている。
「五十を指しっぱなしの速度メーター。静かになっていくエンジン。近づいてくるうねり……」
シンの事実陳列にマリアの感情は爆発した。
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