第4話

 中央の茶色の山肌がしっかりと視認できるほど近いココは、鉱山から運ばれてきた鉱石を加工する工場の裏だ。

 煤やら、油の汚れで朝なのに暗い雰囲気だが、今日は一層どんよりとしていた。

 その理由は、

「おい、上から警察呼べ!!!」

「なんでこんなところに――異形が」

 眉間にシワを寄せる男たちの中心に、うずくまっている子供。それが原因だ。

 肩につく位置で切り揃えられた黒髪。日焼けしていない真っ白の肌。血を凝縮したような真紅の瞳。真夏にもかかわらず、一切の装飾がない上下黒の長袖長ズボンを着用していた。 年齢は十歳前半、誰もが可愛がるであろう愛らしさとどこか浮世離れした神秘さが混ざりあう独特な魅力を持っている子だ。

「おい、お前! なんでここにいんだよ!?――まさか、また戦争をしよってんじゃ」

「違う! 何もしないよ! なのに、なんでこんなことするん――」

「うっせぇ! 角付き(つのつき)が何言ってんだ!」

 彼らが殺気立っているのは、子供の頭部の左右から伸びる黒い角が原因だ。

 大人たちは、過去に起こった独立大戦を知っている。相手はこの子供のような異形の存在。大陸の八割を荒野に変え、不自由な生活にさせた原因が、この子供の仲間たちだ。

 だからこそ恰幅のいい男性は、異形の子供の反論を掻き消すように太い腕を振るう。日頃の鬱憤を多分に乗せて。

「ぐふぅ!?」

 大人の一撃に耐えられるはずもなく、軽い体はゴムボールのように吹き飛び、後方のトタン板に激突する。

 バンッという乾いた音が、何と心地がいいことか。

 大人たちは子供が持つ中指ほどの小さな角を恐れている。それと同時に、大義を持って暴力を振るえることに歓喜している。

「いたいぃ……ぼくは、僕は何もしないよぉぉ……」

「へっ、信用できるか……んなもん。お前らは言葉で惑わす悪魔だ、害獣だ」

「……はぁ、はぁ、いッ……そんな……僕たちはーーゲボッ!?」

 トタン板に背中を預け荒い呼吸を繰り返していると、口から血の塊が噴出した。

「……お願いだよ、お願いだよぉ、僕は探してるだけなんだ……」

 生まれたての小鹿のように全身を震わせながら地面にひざをついた。

 大人たちを見上げ、懇願する子供の身体は透けており、向こうの景色と同化しかけている。

「……珍しい、死にかけか」

「……うん、もう僕に時間はないんだ。……ねぇ、最後のほんの小さなお願いだよ。僕を見逃して……見逃してください」

 子供が泣きながら頭を下げる。角がついているだけの子供が大人に頭を下げているのだ。普通ならば大人たちが虐待を行ったとして捕まるだろうが、それは人間が相手の話。

 異形を助ける法律はない。暴力は誰も止められない。

 遠くに聞こえるエンジン音が待ったをかける、その時までは。

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