第3話

 アクセサリオス。アクセサリーの名前を関するこの都市は、中心にそびえる巨大な炭鉱によって経済圏を形成している。

 全ての道路は茶色の山肌に伸び、自動化された車がせわしなくも統率された動きで都市中央と入り口を往復している。

道路には、自動運転用と一般用の車線が分けられており、シンは隣で規則正しく流れる自動運転車を横目に、ご機嫌な出勤をしていた。

「ふんどっと~ふんどっと――お?」

 すると、自分の右手に違和感を感じた。

「あら……ないない!?――部屋に忘れたか!?」

 いつも右手人差し指に付けている赤い宝石の指輪がなかった。

「ない!? ない!?」

 ハンドルから両手を離し、あちこちのポケットに手を突っ込むシン。彼にとって、その指輪は命の危険を犯してでも探すべき重要な物なのだ。

「おっ!?」

 すると、つなぎの右ポケットに細い金属の感触がある。

 その瞬間、後方からけたたましいクラクションが鳴る。

「――おっとっと!?」

 シンは咄嗟にハンドルを操作し、後方から追い抜こうとしたバイクを何とか回避。

「んぐぐぐぐぐ――っと! ごめんよぉぉぉ!」

 相手側も気にすることはないようで、片手を上げて去っていった。というよりも、仕事に向かうのを優先したようだ。

 この道を行く人たちは、シンと同じ、もしくは色違いのつなぎを着て鉱山を目指していた。

「んだよ、なくなったかと思ったわ~マジよかった~」

 ”母親が売り払ったはず”の指輪を装着しなおしたシンは、街のどこからでも視界に入るほどの巨大な山を眺めつつ、仕事場に向かっていく。

 すると、

「おい! こっちにこいや!!!」

「暴れたら殺すぞ!!!」

 どうやら、シンが通過しようとしている住宅街で喧嘩が起こっているようだ。勿論、エンジン音とヘルメットを貫通するほど大きな声ではないため、シンの耳には届いていない。

 しかし、罵声の中に混ざるもう一つの声だけは、ハッキリと聞こえたようだ。

「助けて!!!」

「っ!?」

 子供の悲鳴だ。 

 シンは咄嗟にハンドルを切り、助けに向かおうとするが過去の出来事を思い出し踏みとどまる。

(ダメだ……そうだ。オレはもう、なにも選べない。じゃないと……また迷惑をかけちまう。……大人しく仕事に行こう)

 目指すは仕事場。大きく息を吐き心を落ち着かせる。

 すると、シンの思考から不要なノイズが消し去ったからだろうか、

「やめてよ!!! 痛いよぉ!!」

 また、甲高い子供の悲鳴が聞こえてきた。

「――あそこか」

 シンの迷いは消え、アクセルの音が”待っていろ”と唸りを上げた。

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