第3話 底辺職のスキル 盗む発動!

 レイの奴……絶対俺に気付いてるな。

お前とどんだけ長く暮らしてきたと思ってるんだ。

見間違うわけがないだろ。


「おーい、レイちゃーん」


「私をその名で呼ぶなぁ~!」


「もういいから! ほら、一緒に帰るぞ」


「フッフッフッ。ならば、私の力を見せてやろうじゃない!」



 そう言うと、手に持っていた杖を頭上へと掲げた。

黒いオーラが彼女の周りに漂い始め、徐々に杖の先っぽに集まり始める。

集められたエネルギーが収束、圧縮。


「喰らいなさい! ダークインパクト!!」


 魔法名が少々ダサく感じるのだが……。

杖の先端から黒いビームが放たれ、雲を突き抜け空の彼方へと消えていった。

完全にあさっての方向にぶっ放している。


 命中率に難はあるものの、威力は絶大。

命中したらただでは済まないのは明白である。



 装備は木の剣で、魔法はMP不足で使えない。

冒頭から絶体絶命大ピンチ。

待てよ……そういえば、犯罪者まがいのスキル持ってたじゃん。

『盗む』、今使えるのってこれくらいじゃね?


 肝はあの杖か……。

ちょっと試してみるかな。



「ハァ、ハァ……見たか! 私の魔法の威力を!」


「確かに威力は凄いな。当たってないけど」


「違う違う! 今のは違うの~! やり直し~!」



 さて、魔女相手に下級スキルが通用するかは知らないが……。


「その杖頂くぜ! ”盗む”発動!」


……。

……。

「あれ??」


 魔女であるレイの手元には、まだしっかりと杖が握られている。

くそっ、ぶっつけ本番で失敗したか……。


「嫌ぁぁ~~~~!!」


 魔女様は大きな悲鳴を上げ、恥ずかしそうに顔を赤らめている。

よくわからないが、魔女を怯ませることに成功したのだ。



「みんな見たか? これが俺の力だ!」


 ん?何だか異様に静かじゃない?

何故、どうして?褒められてもいい状況だよこれは。

それどころか、周りからは冷ややかな視線をあびせられているような感覚。



 ”盗む”を発動した時に、かざした右手に目をやる。


「あれれっ?……」

 

 白くて柔らかくて薄い透けそうな生地。

見えてしまうんじゃないかと思える、かなり際どいラインをしている。

サイドを細いリボンで結ぶデザイン。


 そう、俺が盗んだ物は、レイが履いていたと思われる、非常にけしからん下着(パンツ)だったのだ!


「レ……レイさん……?」


「うっ……っ…お兄ちゃんの馬鹿馬鹿あぁぁっ~~~」


「違う……これは違うんだ! 何かの手違いで!……。だけど、魔女なのに白パン?」


「はぁ!? 魔女だからって黒とは限らないし! ってかお兄ちゃんって妹に興味あるの?……最っ低……キモっ!」



 女の子の下着を得意げに握りしめている男が………………そこにはいた。


「ううっ……帰るわよ眷属達! こんな状態で戦えるわけないじゃない!……」


「やれやれ、これだからお子ちゃまは。パンツの一つや二つで騒ぎ立てるとは、まだまだ修業が足りんな!」


 何の修業なのか甚だ疑問ではあるのだが、無事に魔女御一行を退けた。

魔女退治に来ていた”男”の冒険者や傭兵は、歓喜の雄たけびを挙げている。



「よくやった! 新人冒険者!」

「あの魔女を撃退しちまうなんてよー」

「只者じゃないよアンタ!」


「おう!みんなありがとなっ!」


 こうして街を守り抜いた俺は、晴れて街の救世主……ではなく、犯罪者として名を轟かせたのだった。――――



――――


「本来、貴方の犯した罪は非情に重いのです! しかしながら、街を救ったのもまた事実! よって不問とする」


 全く昨日は散々な目に遭ったぜ。

こんなはずじゃなかったんだけど、どこで間違えたんだろうな。

容疑が晴れた訳ではないが、無事に白日の下に戻ることができた。



 まずは武器を調達するか。

ブラブラ歩いていると、武器屋の看板が見えてくる。

剣のマークが描かれていたのですぐわかった。


「いらっしゃいませ! どの武器をお求めでしょうか?」


 店内を見渡していると、黄金に輝く如何にも強そうな剣を発見。


「これ……いくらです?」


「”黄金の剣”ですね! 100万スピネルでございます!」



 いや、高すぎだろ。

どんだけ働けば100万貯まるんだ?


「どうされましたかお客様? 買うんですか? 買わないんですか? それとも買えないんですか?」


 この女、痛い所を付いてくる。


「お高い剣を買えない、そんな犯罪者の貴方に朗報ですよ! 集会所で依頼を受けるのはどうでしょうか?」


 犯罪者とは失敬な!

何だか悪い方向で知名度上がってるし。



 だが、確かに朗報ではある。

今の俺に必要な物は……金。

その依頼とやらを受ければ稼げるんだろう。


 異世界でも底辺クラスの人生とはな。

どこの世界であっても………格差社会である―――――


【ギルドカード】


【ゼロ】

年齢:19

ギルド:未所属

レベル:5

攻撃力:10

魔法力:10

防御力:10

俊敏力:40

運:20

MP:50


装備:木の剣

装飾品:なし

所持魔法:《ホーリー》

所持スキル:《強奪》《値引き》

所持アイテム:《リンゴ》《うまい棒》

所持金:0sp(スピネル)

職業:盗賊

職業ランク:B


…etc。


 若干のステータス上昇。

職業ランクがBへと上昇。

『盗む』→『強奪』、犯罪者レベル上昇。

着実に成り上がっている……と思います。


ーー続く

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