第2話 襲来!大陸の魔女様

 思いのほか意識ははっきりとしており、自分が女神に出会ったことは鮮明に覚えている。


「ガッハッハッ」

「みんなお疲れー」

「今日は楽な依頼だったぜ」


 何やら周りが騒がしい。

バカ騒ぎしているであろう人の声。

パッと見でここが酒場であることは誰にでもわかる。



「おい、あんちゃん!見ねー顔だな」


 唐突にガタイの良いおっさんに声をかけられた。


「そんなボロッちい服着てどこ行くんだ?」


 何を言っているんだこのおっさんは。

俺は魔女を討伐する為、この世に召喚された冒険者である。

ボロい服とは心外な……。


「おっさん!言っておくがな、俺は魔女を討伐して勇者になる男だ!」


「プっ……ガッハッハッ、冗談も程々にしてくれよあんちゃん」



 こんな場所で油を売っている場合ではない。


「さてと、ちゃちゃっと魔女でも魔王でも討伐しに行くかな」


 おっさんを無視して酒場の入り口へ向かう。

ドアを開けようとした時、ガラスに映る自分の姿を……見てしまった。


「なっ……お前誰っ~~~~~」



ーーーー俺の脳内の妄想

 各地に名を轟かせる最強の冒険者。

聖剣エク〇カリバーを装備し、最強の魔法アル〇マを自由自在に扱う。

卓越した知力と、先見の明をもって敵の策略を見破る。

顔は韓流スターを彷彿とさせる美男子、女に困ったことは一度もない。

大陸でも一二を争う大金持ち。

名だたる仲間達を引き連れて、世界を支配する魔女が住まう城へと乗り込む!


(さぁ、みんな行こうか!(ドヤ顔))


……そのはずだったのだがーーーー



 現実は常に非情であり、異世界に於いても”格差社会”である。

おっさんの指摘通りのボッろい服、ていうかそれぐらいしか表現のしようがない。


 腰にはおもちゃみたいなふざけた剣がくっ付いている。

髪はぼさぼさで、何日も風呂に入っていない浮浪者のような出で立ち。

最強の冒険者とは全くの真逆である。


「…………あの糞女神~~~~~!」



 胡散臭い女神だと心の何処かで感じていたのだが、やはりポンコツ設定の女神だったか。


「なあ、あんちゃん、大丈夫か?顔が死んでるけど」


「うん……この世界でも底辺層なのね(トホホ)」



 すると、俺の腕を見たおっさんがビックリした様子を見せた。


「あんちゃん、その腕の紋章……まさか、白魔法を使えるんか!?」


「白魔法って何だ?」


「いやいや、魔女を討伐って言ってたじゃん。白魔法は唯一魔女を祓うことができる魔法だぞ?」


 確かに『最強の魔法を与えましょう』とか言ってた気がする。

本当に最強の魔法だけはくれたんだなぁ。


「あんちゃんのステータス見せてくれよ!ほら、ポケットに入ってるギルドカード(身分証明書)」


【ゼロ】

年齢:19

ギルド:未所属

レベル:1

攻撃力:10

魔法力:10

防御力:10

俊敏力:10

運:0

MP:10


装備:木の剣

装飾品:なし

所持魔法:《ホーリー》

所持スキル:《盗む》《値引き》

所持アイテム:《リンゴ》《うまい棒》

所持金:100sp(スピネル)

職業:ニート

職業ランク:C

次のレベルまで:50EXP


…etc。



 色々突っ込みどころ満載だけどさ、絶対初期ステだよねこれ。

最高に運悪いもんこの状況、運0だし。

スキルに関しても禄でもないスキルしか取得していない、どんな生活してたんだよ。


 だが、俺が一番納得いかないのが”職業”である。

冒険者ですらない。

ニートじゃないから……フリーターなんだからね!



「やっぱり白魔法持ってるじゃねーか!でも、そのMPじゃまず使えねーんだよなぁ。”ホーリー”の文字を指でタッチしてみな」


【ホーリー】

属性:白

覚醒:未覚醒

消費MP:1000

説明:魔女の瘴気を祓うことが可能な聖なる魔法。※現在使用不可


 ホーリーを取得していても、使えなければ何の意味もない。

魔女の討伐はおろか、そこら辺にいるスライムすら倒せない気がする。

どうやら魔女討伐には程遠いみたいだね。



 想定通りにいかない現実に落胆していると、緊急事態を知らせる鐘が鳴り響く。


「警報!警報!魔女の襲来です!冒険者と傭兵は可及的速やかに城門までお集まりください。」


「うおぉぉぉぉ、やってやるぜー!」

「っしゃぁー、報酬は俺のもんだぜ!」


 酒場にいた連中が、慌ただしく準備を整え城門へと向かい始めた。

ガラリと酒場に取り残された俺。


「魔女ってのがどんな奴なのか見ておくか、とんでもない化け物なんだろうな」



 外へと出ると、鉄で出来た巨大な城門が遠くからでも確認できる。

意外と大きい街なんだなぁ。

冒険者と思われる人や、甲冑を身に纏った傭兵がゾロゾロと走り去っていく。


「警報!警報!魔女の軍勢が約1キロメートルまで接近!住民の方は直ちに避難してください!」


 俺が城門を出た頃には、既に魔女の軍勢が目視できる距離まで近付いていた。



「サンダーボルト!!」

「エクスプロージョン!!」

「アースグレイブ!!」


 各冒険者達が一斉に魔法をぶっ放している。

しかし、魔女と思われる人物は数多の攻撃をモノともしていない様子。


「ハッハッハ-、そんな攻撃が通用すると思ったか!」


「ひぇー」

「やっぱり無理だぁ」

「逃げろ逃げろ!」

「俺達じゃ敵うわけねーんだよ!」


「ハッハッ、愚民共よ!私に逆らった事を後悔させてあげるわ!」



 恐ろしい魔女め!

大勢の冒険者達に隠れて、見えずらかった魔女の姿が目に映る。


「んっ……!?」


 目を擦りもう一度しっかりと魔女をガン見する。

魔女は俺に気付いたらしく、数秒間の沈黙が続く。

そう、目の前に居たのは……元俺の妹、神宮司零じんぐうじれいだったのだ!



「レイお前っ……何やってんの!?」


 レイは目を少しウルっとさせながら言葉を発した。

”お兄ちゃん”と言いかけそうになり、焦って踏みとどまる。


「お兄ちゃ…………やいやい、そこのみすぼらしい男よ!この私を誰と心得る!最強の魔女様だぞ!」



 ポカーン……。

マジで中二病患者か何かなの君は。


 俺はそんな子に育てた覚えはないぞ!

俺が育てた訳じゃないけどな!

開いた口が塞がらないとは、まさにこういう場面で使うんだと初めて思った。

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