異世界転生してニートから成り上がる

LIGHT

第1話 プロローグ

 今日は二人にとっての特別な日。

一年に一度必ず訪れる一大イベントである。


「誕生日おめでとう!」


二人は向かい合い、お互いを祝福し合う。


 俺達は双子の兄弟としてこの世に生を受けた。

同じ日に産まれ落ちたことで、二人分の誕生日が毎年行われるのだ。

夜には家族全員が集まって誕生日パーティーを開くのが、我が家恒例の行事となっている。



 俺の名前は神宮寺零。

双子の妹の名前は神宮寺零。

ん?同じ名前だって?

漢字で書くと同姓同名ではあるのだが、平仮名をふってみようか。


 兄である俺の名前は、神宮寺零じんぐうじぜろ

双子の妹の名前は、神宮寺零じんぐうじれい


 この名前を考えたのは母らしいが、よくもまあ突拍子もないことを思い付くもんだ。

非常に見分けが付きにくい上に、学校ではよく揶揄われた記憶がある。

幼い頃から今に至るまで、非常に仲の良い双子の兄弟だ。



 そんな二人は、昼頃に渋谷の街へと繰り出す。

予約してあったフランス料理店で、ひと時の贅沢を味わうのだ。


「お兄ちゃん、今日は美味しいものいっぱい食べよう!」


 颯爽と自宅を飛び出していく。

我ながら本当に可愛い妹だ。

戸締りをしっかりと行い、置いて行かれないようにと駆け出す。



 渋谷駅は相変わらず人でごった返している状態だ。

スクランブル交差点を渡り、渋谷センター街へと歩を進める。


 すると、若干人通りの少ない道に占いの館を見付けた。

紫色をしたテントに、高そうな金属の装飾が散りばめられている。


「お兄ちゃん、ちょっと待っててね!」


 興味を示した妹は、テントの中へと入って行ってしまった。

しばらく経っても出てこない妹を見かねて、自身も中へと入ってみることにした。

だがそこには、血に塗れた妹の姿が横たわっていたのだ。


「やぁやぁこんにちは、占ってあげようかねぇ」


 その言葉を聞くと同時にテントからの脱出を試みるも、占いババが手に持っていた刃物は一直線に俺の脇腹を刺した。


「うっっ……あぁぁぁぁ……」


 結果、俺と妹は命を落としてしまったのだった。

何ともあっけない人生の幕切れである。

意識が無くなる直前に、自然と言葉が溢れてくる。


「お父さん、お母さん……短い間でしたがお世話になりました。天国で健やかに妹と過ごしていきたいと思います……」


 痛みから徐々に解放されていき、静かに息を引き取った……はずだったのだがーーーー



ーーーー視界が徐々に鮮明になっていき、気付いたら真っ白い空間にいた。

眼前には大きな椅子に座っている女性が確認できる。


 頭の上には黄色い輪っかが浮いており、背中からは綺麗な羽が生えていた。

身長は高めでスレンダーなお姉さんという印象である。


「ん?待てよ……これってもしや」


 頭によぎった異世界転生特有のシチュエーション。

この方はまさか……女神様!?

だけど、声をかけてくる様子はなく、動きを見せる様子もない。

死んでしまった俺を出迎えてくれないのは何故?

まぁ近付いてみようか……。


『zzzz』


 口を半開きにして爆睡中の女神様。

……。

いや、マジ仕事しろよアンタ!

嫌な予感が頭をよぎる。

所謂ポンコツ設定の女神の可能性が高まった。


『私は天に遣わされた女神テラス。心の声が漏れてますよ。女神であるこの私が寝るなんてとんでもない』


 大きないびきをかいてたぞ。

おまけに鼻提灯膨らませてたし……。

先が思いやられるが仕方ない、話を聞いてみようじゃないか。



「女神様、ここってやっぱり異世界?」

『ええ、ここは生と死の狭間にある世界』


 異世界転生きたぁぁ!!


『人間界で不幸な死を遂げた可哀想な我が子よ』

『そんな可哀想な貴方に、もう一度チャンスを与えてあげるわ!』


 一瞬口調が変わった気がするが……。

でも女神様可愛いし最高の展開じゃん!

居眠りしてたなんて些末なことはもう忘れたんだ。


「女神様、俺をどんな世界に転生させてくれるの?」

『この世界をご覧なさい』

『魔女が支配する世界アルメスト大陸』

『貴方には魔女を討伐する冒険者となって頂きます』



 冒険者って響き、永遠に尽きることのない男のロマン。

そして、魔女を討伐して英雄になる、最っ高の第二の人生じゃん!


「任せてください女神様!」

『貴方には魔女を倒すために必要な、最強の魔法を与えてあげるわ!』

『感謝しなさいよね!』


 何だか所々上から目線な気がしなくもないが……ツンデレなのかこの女は。

だがそんな些細なことはどうでもいいのである。

初っ端から最強魔法を手に入れて、思ったより早く英雄になれるんじゃないかな。


「助かったぜ女神様!それじゃあ行ってくるよ!」

『貴方の新たなる名前は”ゼロ”』

『無事に魔女を倒せることを祈っているわ』


 冒険者ゼロとして新たな世界へと旅立つことになった。

これから始まる第二の人生の幕開けだ!

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