世界最強のクール系の口下手おっさん、異世界に行く。  ~25歳の僕っ子JKから告白、神を名乗るギャルから転移してほしいといわれました。同時に絡まれるとか訳がわからない。~

@and8

世界最強のおっさん、異世界に行く

「は、はるとさん! 25歳の女子高生ですが、是非僕とお付き合いしてください!」

「あたしは神! はると君の力を見込んでお願いがあるの! とりま一緒に世界をマジで救って!」

「は?」


 おっさんの俺は思わず目を丸くした。


 理由は目の前に立つ二人の美少女たちの言葉が、あまりに衝撃的かつ、理解不能なものであったからだ。


 片方の少女は、恥じらいを浮かべながら、不思議な告白を告げてきた。

 それはいい。  

 何で美少女がおっさんの俺に告白をしたのか、とかその辺の理由はわからないが、まあいい。


 問題なのは、もう片方の少女が口にした言葉。

 あたしと一緒に世界を救ってほしいと。

 正直、初対面の相手に話す内容としてはあまりにも狂っている。

 俺の聞き間違いか何かなのだろうか。

 

 最近年のせいか、耳が遠くなったから、あり得ないことではない。

 というかそれ以前に、二人同時に話すのはやめてほしい。

 おっさんの硬い頭じゃ、簡単な内容でも認識ができないから。


「ちょっと待て。まずは君たちが何者なのか教えてくれ」


 俺は多少混乱しながらも、冷静さを保とうとする。


 まずはこの場を整理しなくてはな。


「とりあえず一人一人、自己紹介も兼ねて話してほしい。素性がわからないと対応できないからな。じゃあそこの」


 俺はまず、突然告白をしてきた銀髪の少女に目を向けた。


「はい! 僕は女子高生、あかねと申します!」


 自分をあかねだと名乗った少女は、礼儀正しくお辞儀をした。


 元気で可愛い子だな。


「で? 用件は?」


 俺は冷静に尋ねる。


「はい! 僕、はるとさんのそのクールなお姿を見て、一目惚れしました! 好きです! お付き合いしてください!」

 

 あかねの瞳は、真っ直ぐこちらを見ている。


 なるほど、俺の第一印象を見て惚れ込んだと。

 あかねの表情、仕草、口調からは、純粋な好意のようなものが伝わってくるな。


「はあ」   


 長年生きてきたが、こんなにもストレートな告白を受けるのは初めてだ。

 正直その気持ちは嬉しい。


 だからその告白について、率直な結論を出す。

 あまりにも唐突で、どう反応すればいいのかわからない。

 そしておっさんの俺が、女子高生からの告白に、オーケーとは言えない。


 さらに。

 これは別にどうでもいいが、その告白の内容で、三つだけ言いたいことがある。


 俺は心の中で深呼吸をする。


 俺さ!? 外見はこれでも、中身はそんなにクールじゃないぞ!?

 俺は人と話すのが苦手なタイプ、口下手というやつだからそう見えるだけ!

 内心はそこまででもない!


 あと俺、この子と出会った記憶ないし、名前を教えた覚えもないぞ!?

 あ、いやそこはあれか。

 俺の下らない最強なんとかの異名があるから、それ経由で知ったと考えれば、とりあえず納得できるか。


 と、いけないいけない。

 こんな俺のどうこうは心底どうでもいい。

 今は告白の返事をしないとな。


 俺はあかねの目を真っ直ぐみる。


「すまん」

  

 俺はただそれだけを言って、頭を下げる。


「そうですよね……僕なんかじゃあ……はるとさんには釣り合いませんよね……」


 下を向いているので、彼女の表情は見えない。

 しかしなんとなく、悲しそうな雰囲気が漂ってくる。


 そんな自分を下げるようなこと言うなよ!  こっち、こっちだから!

 君という女の子は上で、俺というおっさんが下なのよ!

 面と向かっては言えないけど、それが揺るぎない事実だから!


「……」


 俺は口下手ゆえに、今の心の内を伝えることができず、ただ頭を下げることしかできない。


「か、顔を上げてください!」


 あかねが俺の肩を優しく掴んでくる。


 本当なら、相手の好意を踏みにじったことに対して、すぐに顔を上げるのはあまりよろしくない。


 しかし、ここは礼儀として顔を上げることに。


「いきなりこんなことを言われたら、誰だってこうなりますよ! 確かに残念だけど、一番大事なのは自分の意思ですから!」


 あかねはこちらに向けて、辛そうな笑みを浮かべている。


 本当に良い子すぎない!?

 どうしてこんな素敵な子が、俺のようなおっさんを好きになるんだよ!


 俺なんかよりも、もっと他にふさわしい人がいるだろ!


「でも諦めません! いつか、いえ、来年の二十六歳になるまでに、はるとさんを振り向かせてみせます!」

「そう……え?」

 

 俺は衝撃的な数字が出現したことにより、耳を疑う。

 

 来年二十六……? 来年二十六歳になるということは、彼女は今何歳なんだ? 


 俺の指が数を数えるため、ぎこちなく動く。


 い、いやそれくらいは、おっさんの俺でもわかるよ。だってその数値から、一を引けばいいだけの話なんだから。

 

 わかるんだけどさ。なんというかちょっと衝撃的すぎて、数の数え方を忘れてしまった。


 さすがに年のせいだからとかはないと思う。

 多分。

  

 な、ならば仕方がない。  

 ここはもう直接本人に確認しなければ。


「女性に年齢を聞くのは失礼だと思うが、一応聞く。あかねは今何歳なんだ?」


「うっ……。に、二十五歳です!」

 

 あかねは若干戸惑うような姿勢を見せながらも、こちらの質問に答えてくれた。


 な、なるほど、そういうことか。

 ま、まあなんだ。

 少々驚いたが、人には人の事情とやらがあるし。そういうこともあるよな。


「……」

「……」


 直後、沈黙が俺たちの間に流れ、気まずい空気が流れる。


 なんか追い討ちかけた、かけられたみたいな雰囲気だからこうなるのはわかるよ? 

 わかるけど言わせてほしい。


 気まずっ! 俺こういうの無理だから!

 性格こんなんだけど、話続かないのは無理だから! 


 口下手かつわがままなことだから、絶対口には出さないけれども!


「あのー……」  

「「!?」」

  

 今まで静観していた黒髪の少女が、俺たちの間に割り込んでくる。


 そうだった、彼女がここにいることをすっかり忘れていたな。

 

「……」


 俺はあかねの方を見る。

 軽く挨拶した方がいいよな?


 俺はあかねに一礼したあと、黒髪の少女の元へと歩み寄る。


「あーなんかごめんね? こんな空気なのに、私なんかがいて?」

  

 少女は申し訳なさそうに、頭を少し下げる。


 寧ろそれは俺のセリフなんだよ。

 こんな空気感を作った俺が悪い。

 だからその辺りは気にしないでほしい。

 というか空気重くするなって、二人で抗議してもいいぞ? いやしてください。


「いやいい。ところで君は?」


 俺がそういうと黒髪少女はニッと笑う。


「あたしは神、ミスティだよ~! とりまよろしく~!」

 

 おっさんの俺が言うのは変な話だが、なんと言うか元気な清楚お姉さんって感じの人だな。


「って……え? 神? とりま?」


 なんのこっちゃ?


 日常生活において聞き慣れない単語が出てきたことにより、俺の頭の中は混乱する。


「あーそうだよね~。あたしからいきなりこんなことを言われても困っちゃうよね? だったらまずはこれを」


 ミスティはいきなり手のひらを広げる。

 その瞬間、彼女の手から輝く光が放たれる。


 目の前で突如繰り広げられた未知の光景に、俺は思わず息を呑み、思う。


 綺麗だ。


 まさかこの年になって、このようなものが見られるなんてな。これはあれか? 今流行りの機械か何かを使って出したのだろうか。


 それにしてはなんか、上手くは言えないけど、不思議な感じがするというか。


「これだけじゃ神の証明にはならないけど、一応この世界にない力、魔術を出してみたよ~! どう? 凄いっしょ?」


 ここで魔術か。あーあの噂に聞く、あれのことね。


「なるほど魔術か。あの魔術な。まさかここで魔術がくるとはな。魔術……いつみても素晴らしい。やはり魔術の進歩というものは」 

「ぷっ! なにその反応! マジウケル~!」 

 ミスティはニヤニヤしながら手を口元に当てている。


 ごめん魔術と、マジウケルって何?


 とりあえずもう必死に着いていこうというノリで、適当に話してみたが、俺の頭の中は真っ白。


 もうおっさんの俺には、何がなんだかさっぱり。


 はっ!? もしかすると、これは今の若者の流行的なやつか? 俺そういうのはかなり疎い方なんだよなぁ。

 

「それで? その魔術が使える君が俺になんの用?」


 魔術がどうこうは正直どうでもいい。

 今回の話で一番の目的は、何の用があって俺に声かけをしにきたのか。この一点のみだ。


「!」


 ミスティはこちらからの問いに対し、目を輝かせ

 

「おっ? よくぞ聞いてくれました!」


 と声を上げ、胸を高らかに張る。


「あたしがここにきたのは、はるとくん! 君の世界最強の力を貸してもらいたくてここにきたんだよ~!」


 世界最強? 

 あー下らない俺の異名ね。確かに巷では俺のことをそう呼ぶ人もいるが、そんなに大層なものじゃないぞ?


「何のために?」  

「それはもちろんその力で異世界、こことは別の世界を救ってもらうためだよ~!」

「は?」


 何がもちろんなんだよ? 

 というかよくわからん単語が出てきたぞ?


「別の世界……? 異世……界?」

  

 ミスティの止まることを知らない勢いと、新たな新情報に、口から思わず低い声か出てしまう。


 彼女からの言葉が、俺の頭の中でぐるぐると回る。


 異世界? 救う? とりま? マジウケル?

 世界最強の俺が?

 もうさ?

 ここまで我慢してきたけど言わせて?

 全部意味がわからないぞ!?

 え? まとめるとこういうこと?


 この子は神。魔術という力が使える。声かけした目的は、俺の力で異世界とやらを救ってほしいからと。

 

 あってるこれ?

 回答を得たようで、何一つわからないぞ?

 でこの情報を一気に短時間で言われても、処理できないぞ!?

 そもそも言葉の意味がわからないし!


「なるほど。ミスティさんは異世界を救うためにここにきたと。わかりやすい目的ですね!」

「おっ! さすが! 理解が早くて助かるね~

!」


 いつの間にかあかねが会話に混ざっている。


 もう大丈夫なのか……?

 じゃなくてこれがわかりやすい!?

 どの辺りが!?

 俺なんか最初のところでつまづいているんだけど!? 


 あー、というかだんだん記憶が薄れて。


 さっきまとめたはずの内容が俺の頭の中から、パラパラと崩れていく。


「はると君、理解できてる?」 

 

 ミスティがこちらを不思議そうに見てくる。

 ヤバい! このままだと俺馬鹿認定される! それはちょっと恥ずかしいから嫌だ!


「わかってますよね?」


 こちらを見るあかねの目は、どこか期待に満ちて輝いている。


 その視線は今の俺にはまぶしすぎるよぉ。


 俺はごまかすために、少し目を逸らす。


「えー、まあそうだな。あ、あれだろ? 異世界を、と、とりまするんだろ?」

「……そ、そうですか!」


 あかねの口が、一瞬空いた気がするけど、気にしないでおこうか。


「よし! 理解がまとまったようだね!」


 ミスティが軽く一回手を叩く。


 まとまるどころか、逆に謎が増えているぞ? 若者たちよ、おっさんを置いていかないでくれ。

    

「じゃあ早速、今から三人でソッコー異世界にいこうか~!」

「はい!」

「え? え?」


 異世界? 今から? 急すぎない? しかも三人? 

  

「あ、あの」

  

 俺は質問をするために声を上げる。


「なに~?」

「三人とは?」


 ミスティ、俺、あともう一人は誰なの。


「ん? ああ! さっきも言ったと思うけど、この旅はあたし、はるとくん、あかねちゃんの三人でいくことになるから~! そこんとこヨロシクッ!」


 聞いてないぞ!?

 どっからそんな話が、いや違うか。

 おそらくさっきの俺が悩みまくっていたタイミングで、二人は話をしていたんだ。


 現にあかねは、異世界行きと言われても平然とした顔をしているし。


「じゃあ気を取り直して、早速異世界にいこうか!」

「おー!」

「……おー」

  

 なんかもう勢いだけど、ここはとりあえず乗っておくか。

 とそうだ、乗ると言えばだ。

 異世界に行く手段って一体なんだ? 


 俺は異世界とやらに行く交通手段について、思考をこねくりまわす。


 車? バス? 電車? 飛行機? 

 違う世界と言うのだから、長い旅になるのは間違いないよな。

 そうなると、飛行機が一番可能性が高いか。

 いや、異世界とやらは別の世界らしいし、そこまで飛べる飛行機なんて存在するのか?

 

 もしかして宇宙船とか。

 それとも案外、徒歩圏内の近場だったりするのか。

 いや別の世界に徒歩で行けたら、それはもうただの近場の散歩じゃん。


「ミスティさん。異世界にはどうやっていくんですか?」   

「ん? 魔術を使っていくんだよ? こんな風に……転移!」


 ◇


「到着! ここが異世界だよ!」

「「!?」」


 気がつくと、俺の視界には草原、遠くにそびえ立つ山々が映っていた。


 というのはどうでもいい。

 どうして俺はここにいるんだよ。


 結局ここにくるまでの移動手段は一体なんだったんだよ。 まさかノリでスルーするやつか?


「「……」」


 説明無しと。了解。ここでの質問は無粋と。


「はるとくん、どう? 異世界は!」


 ミスティが目を輝かせ、何かを期待する化のような声で尋ねてくる。


「ああ、いいな」


 俺はすぐに気持ちを切り替えると、今の景色についての感想を述べる。

  

「とてもいい。なんというか、あ、あの辺が」


 俺の指が伸びる。

 震えながら適当な方向に。


 正直なところ、この景色については特になにもない。ただ草と山が並んでるなくらい。普っ通。可もなく不可もなく、中間というのが本音。


 いや、確かに美しいの認めるよ。

 だがさっき見せてもらった、魔術の衝撃と比べてしまうと、なんか物足りない。


「で? 異世界にきたのは良いとして、これから何をすればいいんですか?」


 あかねは周囲を見渡しながら、不安そうに今の目的について確認をする。


「それは俺も気になっていたな」


 確か救うとかなんとか言っていたよな。


 まさか、草原に散らばったゴミを片付けることが目的とかなのだろうか。それで異世界の環境を救うとか。


 いや、それなら俺たちの手助けなんて必要ない。それだと、一応世界最強の俺がここにいる意味がわからない。


「うーんとね。簡単に言うと、魔物たちの討伐だよ~!」


 ミスティは笑顔を浮かべ、人差し指を頬に向けながら答える。


 ここでまたもや新情報ね。

 これも質問できないやつと。

 もう適当に言っとくか。


「なるほど魔物か。懐かしい響きだな」


 俺は遠くを見つめながら呟く。


「え? はるとさん、魔物を知っているんですか?」


 あかねから驚いたような声が上がる。


 俺はやれやれと軽く肩をすくめ、

「まあな。だいたいな」と答える。


「凄いですね! 私は全然わかりません」

「そうか」


 ヤべーえ! 知ったかぶりをしてしまったぞ!? 魔物? なんだよそれ? 


 ここまで皆のノリと勢いに合わせてきたから、適当に答えちゃったわ!? 

 これは間違えたあ!


「魔物って言うのはね? チョー簡単に言うと、悪さをする生き物のことなんだよ~!」


 よかった、ちゃんとした説明があったわ。

 なるほど、つまり魔物とは生物のことね。

 で討伐ということだから。


「つまり、俺たちがそれを倒さなきゃいけないということか?」


 俺はミスティに、自身が正しい理解をできているのかどうか確認をする。


 これで違ってたら泣くぞ?


「その通り! この異世界には、君らの世界とは違って魔物がチョーたくさんいるの!

しかもその上マジ強い。とてもじゃないけど、こっちの皆だけではチョイ厳しいんだよ!」


 よかった。

 とりあえずここの理解はできていると。


「だから私たちをここに?」

 

 話を聞いていたあかねは、どこか不安そうな表情をしている。


「そう! でも、あかねちゃんはまず力を解放しないとね!」


 ミスティのその言葉には、少しの期待が混じっているように聞こえる。


「私に戦いなんてできるでしょうか?」

「大丈夫! あかねちゃんの成長が凄いことは、あたしの調べでわかっているから! だから徐々に慣れていけばいいよっ! それに……」   


 ミスティが俺の方を見つめる。


「世界最強のはると君がいるから、心配いらないよ!」

「なるほど! それなら安心ですね」


 あかねは期待しているような眼差しを俺に向ける。 


 えーとこういう場合は


「任せておけ」


 俺は静かに呟くと、二人に背を向ける。


 またノリで答えてしまったぞ!?

 なんで俺が期待されてるの!?

 世界最強だから!?

 確かにそう呼ばれてはいるけど、それは周りが持ち上げているだけだぞ!?

 仮によ? 仮に世界最強だとしてもだよ?

 その怪物を相手にするのは無理だろうよ!?


 なぜこちらの力と、相手の力を見比べる前に結論を出す。というかなんで俺はそこで、自信がないの一言も言えないんだよ。


 任せておけとか言ってしまったら、いざという時に手助けしてもらえないだろうが。

 退路を立つな馬鹿。

 ここで何も言わないと勘違いされるだろうが!


 俺は自分の性格の悪さを嘆いていた。


 痛いおっさんじゃねえんだから、少しは素直に……ん? あれは?


 俺の目にふと、とある存在が映る。

 

「なあ? あれは魔物なのか?」 


 俺はミスティに聞こえるように、美しい翼を持つ光る存在を指差した。   


 なんだかヤバそうだなあれ。 


「どれ? ってマッ!? あれは大天使!?」


 そのミスティの声には、どこか驚きのようなものが滲んでいるように聞こえる。


 天使、つまり神であるミスティの仲間ということなのだろうか。 

 さすがにそれくらいはなんとなくわかるよ。

 

 となると、ここは気にしなくてもいいのかもしれないな。


 と、俺がその存在をスルーしようとした瞬間、大天使から機械的な音声が聞こえてくる。


「敵捕捉。対象。異世界の神ミスティ、以下省略。脅威度最低と認定。これより殲滅を開始する」 


 物騒な言葉が俺の耳に入った瞬間、心臓がドキドキと跳ね上がる。


 あ? 聞き間違いだよな?

 今殲滅って……


 俺が大天使の様子を慎重に伺うと、それは口を大きく変形させ、エネルギーのようなものをためていた。 


 何何何何何何何!?

 なんで口が変わるの!?

 いやそれより、あのヤバそうなエネルギーは何!? 

 

「チョー不味いよ! 大天使は今の私たちじゃ、ゼンゼン勝てないくらい強いんだよ!」


 はっ!?

 するとこの状況は!?


「えっ!? ということはそれはつまり?」

「ここで終わりということだよ……」


 まさかのほとんど理解できないまま、ここで終わり!?


「あ! だったら、さっきの魔術、転移で逃げれば」

 

 ナイスあかね!

 こうやってピンチな時に、冷静な提案ができるのは良いことだぞ。


「ごめん。しばらくは使えないよ。だからここを乗り切る方法はない」


 まさか打つ手無しと!?


「ごめん……こんなことに二人を巻き込んで……」

 

 ミスティは申し訳なさそうにこちらを見る。


「そんな! 自分を攻めないでください!」


 ミスティとあかねは、恐怖をまぎらわせるかのようにお互いを抱き合っている。


「エネルギー充填完了。大天使砲(ゴエティア)」


 謎の単語の直後、激しい光の塊が、俺たちに向かって一直線に飛んでくる。


 ヤバいヤバいヤバいヤバい。

 こんなのに当たったら死んでしまうぞ!?  どうする!?


 そうだ! 下にしゃがめば可能性はあるかも! いや無理か? しかし何もしないよりはましだろ!

 

 であれば早速二人にも駄目元で提案を。


「「……」」


 俺の目に映るのは、ミスティとあかねが、まるで運命を受け入れるかのように、瞳を閉じている姿だ。

    

「……」


 その光景を見て俺の心は、情けない気持ちでいっぱいになる。


 二人は今望まぬ結末を、静かに受け入れようとしている。反対におっさんの俺は、じたばたと惨めに足掻いている。


 これでいいのか? 俺?


 認めてないとはいえ、周りから世界最強と呼ばれる身で、この体たらくはあり得ないだろ。


 それならこんな時、何も考えず、ふさわしい行動とやらをとるのが当たり前だろう。


「少し下がれ」


 俺はあかねとミスティを庇うため、前に出る。


「「はるとさん(くん)!」」


 今、絶体絶命のピンチな状況。

 できることはこれくらいしかない。


 そして俺は迫り来るエネルギーを、真っ直ぐ見て、言葉を漏らす。


「弱いな」


 異世界という訳のわからない場所で、俺は何もできないし弱い存在だ。


 しかし、今はそんなことはどうでもいい。

 今という最後くらいは、世界最強として、恥じない散り方をしたい。


 それと。


 俺は後ろの二人に首を少し向ける。


「怯えるな。その目にしかと焼き付けろ」


 こんな時だが、二人ともあまり怯えないでほしい。

  

「はるとくん、このピンチに何をするつもりなの!?」

「こんな時に何を!?」


 俺はそれらの問いに、答える余裕はなかった。


 今はただ目の前に迫る脅威に、全神経を集中させる。それだけ。


「ここは片手だな」

 

 俺は片手を前に伸ばす。

 

 ヤバい、両手を出そうとしたのに、震えで片手しか上がらない。こんななめ腐った最後なんて、あり得ないだろ!?


「っ!」


 ええい! もう迷っている暇はない!

 

 眼前まで押し寄せてきたエネルギーと、俺の片手が一つに重なる。


「脆いな」


 ヤべえ!! 

 このエネルギーが熱すぎて、手の皮がむけてきた!!

 何でこんなにも脆いのかな、俺の手はさ!

 

「上だな」


 と、とにかくこれを上にあげよう!

 これ以上耐えるのはもう無理!


 俺は意を決し、無我夢中でそれを勢い良く空に打ち上げた。


「エラー! 理解不能。これより目標の行動履歴を解析」


 大天使から歪な機械音が鳴る。


 あれ!? 

 まさか、俺があの攻撃を防げたのか!? 


 気がつくと俺の前から、エネルギーは消えていた。

 

 本当ならあそこで、二人の盾として散る運命だったはずなのに!?


「ふっこの程度か。なら次にやることは一つだな」


 っていかんいかん。

 考えるのはあとだよな。

 今回はなんとか防げたが、次に同じことが起きたら、どうなるかわからない。


「解析中」

「いくぞ」 


 俺は大天使が何かを呟いている隙を突き、奴の上空へと飛び上がる。


 ここは攻撃される前に、こちらから仕掛ける。


 本当はこんな物騒な存在に近づきたくはないが、二人を守るためだ。

 仕方がない。


 どこまでやれるかわからんが、やれるだけやって見よう。


「解析完了。不可事象と認定。これより対象の殲滅を優先」 


 大天使は、俺の接近に気づいていない様子。


 攻撃しても問題ないよな? 

 俺は拳に力を込めて、下の大天使に向ける。


「エラー! 一対象の消失を確認。現在位置は……」 


 大天使がギョロリと、こちらに首を向けてくる。


 気づかれたか! だがもう遅い!


「終わりだ」


 俺は一気に大天使の元に飛び込む。

 そして力の限り、拳を勢い良く振り下ろし、その体に直撃させた。


「……判定。損傷リ率、0%ト。現在受けたダメージから、最適な反撃を開始シする。承ウ認。敵の脅威度をヲ無しと認定。エらー。これより機能停止に移行ウ。繰り返す機能停止シシシシシ……」


 耳障りな警告音のような物が聞こえたあと、大天使は沈黙した。

 

「どうやら倒せたみたいだな」


 それより。

 俺は拳を激しくさする。


 めちゃくちゃ痛えええ!!

 何あの硬さは!?

 俺ただ殴っただけなのに、手が真っ赤なんだけど!?


 自慢じゃないが、今まで生きてきた中で、こんな風になったことはないんだけど!?


 ◇


「す、凄い……まさか一瞬で敵を葬るなんて……」

「マジ!? あの大天使を倒すなんてチョー凄い!」


 大天使を打ち倒したあと、あかねとミスティが嬉しそうに、こちらへ駆け寄ってきた。


「二人とも怪我はないか?」

「はい! はるとさんが助けてくれたので、どこも!」

「やっば! 敵を倒したあとに涼しい顔ができるとかマジカッコいい!」


 俺を見る彼女たちの目は輝いている。


 しかし、次の瞬間、あかねが俺の腕を掴んできた。 


「手が真っ赤! はるとさん、まさかさっきの一撃で怪我を?」

「大変! 爆ソクで回復魔術を使うから手出して!」


 待って! そんなに近寄られるとか無理!


「っ」


 俺は顔が熱くなると、手で二人を制す。


「不要だ。それよりも行くぞ」

「「でも!」」

「今は話しよりも、行動あるのみだ」


 俺は二人に背を向け、適当に歩き出す。

 

「あの怪我でもクールさを崩さない、はるとさん凄いです! いつになるかはわかりませんが、いずれその隣にいってみせます!」

「あの傷を受けてなんともないなんてね~! これはもう異世界を救うのも楽勝だね~!」

「さっさと行くぞ」


 俺はその言葉が恥ずかしかったので、とりあえず二人についてくるよう、首で促した。

  

 ◇


 二五歳の女子高生からの告白と、神を名乗る少女からの謎のノリから始まり、なんとなくできてしまったこの異世界。


 未だに俺の中で、神や魔術、魔物等について意味不明なところが多い。

 

 そんな流れについていけない、頭の硬いおっさんの俺だが、確かに言えることがいくつかある。


 手が痛ええええええ!

 大天使怖えええええ!

 マジウケルウウウウ!


「とりま異世界ヤべえ!」 

 

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