世界最強のクール系の口下手おっさん、異世界に行く。 ~25歳の僕っ子JKから告白、神を名乗るギャルから転移してほしいといわれました。同時に絡まれるとか訳がわからない。~
@and8
世界最強のおっさん、異世界に行く
「は、はるとさん! 25歳の女子高生ですが、是非僕とお付き合いしてください!」
「あたしは神! はると君の力を見込んでお願いがあるの! とりま一緒に世界をマジで救って!」
「は?」
おっさんの俺は思わず目を丸くした。
理由は目の前に立つ二人の美少女たちの言葉が、あまりに衝撃的かつ、理解不能なものであったからだ。
片方の少女は、恥じらいを浮かべながら、不思議な告白を告げてきた。
それはいい。
何で美少女がおっさんの俺に告白をしたのか、とかその辺の理由はわからないが、まあいい。
問題なのは、もう片方の少女が口にした言葉。
あたしと一緒に世界を救ってほしいと。
正直、初対面の相手に話す内容としてはあまりにも狂っている。
俺の聞き間違いか何かなのだろうか。
最近年のせいか、耳が遠くなったから、あり得ないことではない。
というかそれ以前に、二人同時に話すのはやめてほしい。
おっさんの硬い頭じゃ、簡単な内容でも認識ができないから。
「ちょっと待て。まずは君たちが何者なのか教えてくれ」
俺は多少混乱しながらも、冷静さを保とうとする。
まずはこの場を整理しなくてはな。
「とりあえず一人一人、自己紹介も兼ねて話してほしい。素性がわからないと対応できないからな。じゃあそこの」
俺はまず、突然告白をしてきた銀髪の少女に目を向けた。
「はい! 僕は女子高生、あかねと申します!」
自分をあかねだと名乗った少女は、礼儀正しくお辞儀をした。
元気で可愛い子だな。
「で? 用件は?」
俺は冷静に尋ねる。
「はい! 僕、はるとさんのそのクールなお姿を見て、一目惚れしました! 好きです! お付き合いしてください!」
あかねの瞳は、真っ直ぐこちらを見ている。
なるほど、俺の第一印象を見て惚れ込んだと。
あかねの表情、仕草、口調からは、純粋な好意のようなものが伝わってくるな。
「はあ」
長年生きてきたが、こんなにもストレートな告白を受けるのは初めてだ。
正直その気持ちは嬉しい。
だからその告白について、率直な結論を出す。
あまりにも唐突で、どう反応すればいいのかわからない。
そしておっさんの俺が、女子高生からの告白に、オーケーとは言えない。
さらに。
これは別にどうでもいいが、その告白の内容で、三つだけ言いたいことがある。
俺は心の中で深呼吸をする。
俺さ!? 外見はこれでも、中身はそんなにクールじゃないぞ!?
俺は人と話すのが苦手なタイプ、口下手というやつだからそう見えるだけ!
内心はそこまででもない!
あと俺、この子と出会った記憶ないし、名前を教えた覚えもないぞ!?
あ、いやそこはあれか。
俺の下らない最強なんとかの異名があるから、それ経由で知ったと考えれば、とりあえず納得できるか。
と、いけないいけない。
こんな俺のどうこうは心底どうでもいい。
今は告白の返事をしないとな。
俺はあかねの目を真っ直ぐみる。
「すまん」
俺はただそれだけを言って、頭を下げる。
「そうですよね……僕なんかじゃあ……はるとさんには釣り合いませんよね……」
下を向いているので、彼女の表情は見えない。
しかしなんとなく、悲しそうな雰囲気が漂ってくる。
そんな自分を下げるようなこと言うなよ! こっち、こっちだから!
君という女の子は上で、俺というおっさんが下なのよ!
面と向かっては言えないけど、それが揺るぎない事実だから!
「……」
俺は口下手ゆえに、今の心の内を伝えることができず、ただ頭を下げることしかできない。
「か、顔を上げてください!」
あかねが俺の肩を優しく掴んでくる。
本当なら、相手の好意を踏みにじったことに対して、すぐに顔を上げるのはあまりよろしくない。
しかし、ここは礼儀として顔を上げることに。
「いきなりこんなことを言われたら、誰だってこうなりますよ! 確かに残念だけど、一番大事なのは自分の意思ですから!」
あかねはこちらに向けて、辛そうな笑みを浮かべている。
本当に良い子すぎない!?
どうしてこんな素敵な子が、俺のようなおっさんを好きになるんだよ!
俺なんかよりも、もっと他にふさわしい人がいるだろ!
「でも諦めません! いつか、いえ、来年の二十六歳になるまでに、はるとさんを振り向かせてみせます!」
「そう……え?」
俺は衝撃的な数字が出現したことにより、耳を疑う。
来年二十六……? 来年二十六歳になるということは、彼女は今何歳なんだ?
俺の指が数を数えるため、ぎこちなく動く。
い、いやそれくらいは、おっさんの俺でもわかるよ。だってその数値から、一を引けばいいだけの話なんだから。
わかるんだけどさ。なんというかちょっと衝撃的すぎて、数の数え方を忘れてしまった。
さすがに年のせいだからとかはないと思う。
多分。
な、ならば仕方がない。
ここはもう直接本人に確認しなければ。
「女性に年齢を聞くのは失礼だと思うが、一応聞く。あかねは今何歳なんだ?」
「うっ……。に、二十五歳です!」
あかねは若干戸惑うような姿勢を見せながらも、こちらの質問に答えてくれた。
な、なるほど、そういうことか。
ま、まあなんだ。
少々驚いたが、人には人の事情とやらがあるし。そういうこともあるよな。
「……」
「……」
直後、沈黙が俺たちの間に流れ、気まずい空気が流れる。
なんか追い討ちかけた、かけられたみたいな雰囲気だからこうなるのはわかるよ?
わかるけど言わせてほしい。
気まずっ! 俺こういうの無理だから!
性格こんなんだけど、話続かないのは無理だから!
口下手かつわがままなことだから、絶対口には出さないけれども!
「あのー……」
「「!?」」
今まで静観していた黒髪の少女が、俺たちの間に割り込んでくる。
そうだった、彼女がここにいることをすっかり忘れていたな。
「……」
俺はあかねの方を見る。
軽く挨拶した方がいいよな?
俺はあかねに一礼したあと、黒髪の少女の元へと歩み寄る。
「あーなんかごめんね? こんな空気なのに、私なんかがいて?」
少女は申し訳なさそうに、頭を少し下げる。
寧ろそれは俺のセリフなんだよ。
こんな空気感を作った俺が悪い。
だからその辺りは気にしないでほしい。
というか空気重くするなって、二人で抗議してもいいぞ? いやしてください。
「いやいい。ところで君は?」
俺がそういうと黒髪少女はニッと笑う。
「あたしは神、ミスティだよ~! とりまよろしく~!」
おっさんの俺が言うのは変な話だが、なんと言うか元気な清楚お姉さんって感じの人だな。
「って……え? 神? とりま?」
なんのこっちゃ?
日常生活において聞き慣れない単語が出てきたことにより、俺の頭の中は混乱する。
「あーそうだよね~。あたしからいきなりこんなことを言われても困っちゃうよね? だったらまずはこれを」
ミスティはいきなり手のひらを広げる。
その瞬間、彼女の手から輝く光が放たれる。
目の前で突如繰り広げられた未知の光景に、俺は思わず息を呑み、思う。
綺麗だ。
まさかこの年になって、このようなものが見られるなんてな。これはあれか? 今流行りの機械か何かを使って出したのだろうか。
それにしてはなんか、上手くは言えないけど、不思議な感じがするというか。
「これだけじゃ神の証明にはならないけど、一応この世界にない力、魔術を出してみたよ~! どう? 凄いっしょ?」
ここで魔術か。あーあの噂に聞く、あれのことね。
「なるほど魔術か。あの魔術な。まさかここで魔術がくるとはな。魔術……いつみても素晴らしい。やはり魔術の進歩というものは」
「ぷっ! なにその反応! マジウケル~!」
ミスティはニヤニヤしながら手を口元に当てている。
ごめん魔術と、マジウケルって何?
とりあえずもう必死に着いていこうというノリで、適当に話してみたが、俺の頭の中は真っ白。
もうおっさんの俺には、何がなんだかさっぱり。
はっ!? もしかすると、これは今の若者の流行的なやつか? 俺そういうのはかなり疎い方なんだよなぁ。
「それで? その魔術が使える君が俺になんの用?」
魔術がどうこうは正直どうでもいい。
今回の話で一番の目的は、何の用があって俺に声かけをしにきたのか。この一点のみだ。
「!」
ミスティはこちらからの問いに対し、目を輝かせ
「おっ? よくぞ聞いてくれました!」
と声を上げ、胸を高らかに張る。
「あたしがここにきたのは、はるとくん! 君の世界最強の力を貸してもらいたくてここにきたんだよ~!」
世界最強?
あー下らない俺の異名ね。確かに巷では俺のことをそう呼ぶ人もいるが、そんなに大層なものじゃないぞ?
「何のために?」
「それはもちろんその力で異世界、こことは別の世界を救ってもらうためだよ~!」
「は?」
何がもちろんなんだよ?
というかよくわからん単語が出てきたぞ?
「別の世界……? 異世……界?」
ミスティの止まることを知らない勢いと、新たな新情報に、口から思わず低い声か出てしまう。
彼女からの言葉が、俺の頭の中でぐるぐると回る。
異世界? 救う? とりま? マジウケル?
世界最強の俺が?
もうさ?
ここまで我慢してきたけど言わせて?
全部意味がわからないぞ!?
え? まとめるとこういうこと?
この子は神。魔術という力が使える。声かけした目的は、俺の力で異世界とやらを救ってほしいからと。
あってるこれ?
回答を得たようで、何一つわからないぞ?
でこの情報を一気に短時間で言われても、処理できないぞ!?
そもそも言葉の意味がわからないし!
「なるほど。ミスティさんは異世界を救うためにここにきたと。わかりやすい目的ですね!」
「おっ! さすが! 理解が早くて助かるね~
!」
いつの間にかあかねが会話に混ざっている。
もう大丈夫なのか……?
じゃなくてこれがわかりやすい!?
どの辺りが!?
俺なんか最初のところでつまづいているんだけど!?
あー、というかだんだん記憶が薄れて。
さっきまとめたはずの内容が俺の頭の中から、パラパラと崩れていく。
「はると君、理解できてる?」
ミスティがこちらを不思議そうに見てくる。
ヤバい! このままだと俺馬鹿認定される! それはちょっと恥ずかしいから嫌だ!
「わかってますよね?」
こちらを見るあかねの目は、どこか期待に満ちて輝いている。
その視線は今の俺にはまぶしすぎるよぉ。
俺はごまかすために、少し目を逸らす。
「えー、まあそうだな。あ、あれだろ? 異世界を、と、とりまするんだろ?」
「……そ、そうですか!」
あかねの口が、一瞬空いた気がするけど、気にしないでおこうか。
「よし! 理解がまとまったようだね!」
ミスティが軽く一回手を叩く。
まとまるどころか、逆に謎が増えているぞ? 若者たちよ、おっさんを置いていかないでくれ。
「じゃあ早速、今から三人でソッコー異世界にいこうか~!」
「はい!」
「え? え?」
異世界? 今から? 急すぎない? しかも三人?
「あ、あの」
俺は質問をするために声を上げる。
「なに~?」
「三人とは?」
ミスティ、俺、あともう一人は誰なの。
「ん? ああ! さっきも言ったと思うけど、この旅はあたし、はるとくん、あかねちゃんの三人でいくことになるから~! そこんとこヨロシクッ!」
聞いてないぞ!?
どっからそんな話が、いや違うか。
おそらくさっきの俺が悩みまくっていたタイミングで、二人は話をしていたんだ。
現にあかねは、異世界行きと言われても平然とした顔をしているし。
「じゃあ気を取り直して、早速異世界にいこうか!」
「おー!」
「……おー」
なんかもう勢いだけど、ここはとりあえず乗っておくか。
とそうだ、乗ると言えばだ。
異世界に行く手段って一体なんだ?
俺は異世界とやらに行く交通手段について、思考をこねくりまわす。
車? バス? 電車? 飛行機?
違う世界と言うのだから、長い旅になるのは間違いないよな。
そうなると、飛行機が一番可能性が高いか。
いや、異世界とやらは別の世界らしいし、そこまで飛べる飛行機なんて存在するのか?
もしかして宇宙船とか。
それとも案外、徒歩圏内の近場だったりするのか。
いや別の世界に徒歩で行けたら、それはもうただの近場の散歩じゃん。
「ミスティさん。異世界にはどうやっていくんですか?」
「ん? 魔術を使っていくんだよ? こんな風に……転移!」
◇
「到着! ここが異世界だよ!」
「「!?」」
気がつくと、俺の視界には草原、遠くにそびえ立つ山々が映っていた。
というのはどうでもいい。
どうして俺はここにいるんだよ。
結局ここにくるまでの移動手段は一体なんだったんだよ。 まさかノリでスルーするやつか?
「「……」」
説明無しと。了解。ここでの質問は無粋と。
「はるとくん、どう? 異世界は!」
ミスティが目を輝かせ、何かを期待する化のような声で尋ねてくる。
「ああ、いいな」
俺はすぐに気持ちを切り替えると、今の景色についての感想を述べる。
「とてもいい。なんというか、あ、あの辺が」
俺の指が伸びる。
震えながら適当な方向に。
正直なところ、この景色については特になにもない。ただ草と山が並んでるなくらい。普っ通。可もなく不可もなく、中間というのが本音。
いや、確かに美しいの認めるよ。
だがさっき見せてもらった、魔術の衝撃と比べてしまうと、なんか物足りない。
「で? 異世界にきたのは良いとして、これから何をすればいいんですか?」
あかねは周囲を見渡しながら、不安そうに今の目的について確認をする。
「それは俺も気になっていたな」
確か救うとかなんとか言っていたよな。
まさか、草原に散らばったゴミを片付けることが目的とかなのだろうか。それで異世界の環境を救うとか。
いや、それなら俺たちの手助けなんて必要ない。それだと、一応世界最強の俺がここにいる意味がわからない。
「うーんとね。簡単に言うと、魔物たちの討伐だよ~!」
ミスティは笑顔を浮かべ、人差し指を頬に向けながら答える。
ここでまたもや新情報ね。
これも質問できないやつと。
もう適当に言っとくか。
「なるほど魔物か。懐かしい響きだな」
俺は遠くを見つめながら呟く。
「え? はるとさん、魔物を知っているんですか?」
あかねから驚いたような声が上がる。
俺はやれやれと軽く肩をすくめ、
「まあな。だいたいな」と答える。
「凄いですね! 私は全然わかりません」
「そうか」
ヤべーえ! 知ったかぶりをしてしまったぞ!? 魔物? なんだよそれ?
ここまで皆のノリと勢いに合わせてきたから、適当に答えちゃったわ!?
これは間違えたあ!
「魔物って言うのはね? チョー簡単に言うと、悪さをする生き物のことなんだよ~!」
よかった、ちゃんとした説明があったわ。
なるほど、つまり魔物とは生物のことね。
で討伐ということだから。
「つまり、俺たちがそれを倒さなきゃいけないということか?」
俺はミスティに、自身が正しい理解をできているのかどうか確認をする。
これで違ってたら泣くぞ?
「その通り! この異世界には、君らの世界とは違って魔物がチョーたくさんいるの!
しかもその上マジ強い。とてもじゃないけど、こっちの皆だけではチョイ厳しいんだよ!」
よかった。
とりあえずここの理解はできていると。
「だから私たちをここに?」
話を聞いていたあかねは、どこか不安そうな表情をしている。
「そう! でも、あかねちゃんはまず力を解放しないとね!」
ミスティのその言葉には、少しの期待が混じっているように聞こえる。
「私に戦いなんてできるでしょうか?」
「大丈夫! あかねちゃんの成長が凄いことは、あたしの調べでわかっているから! だから徐々に慣れていけばいいよっ! それに……」
ミスティが俺の方を見つめる。
「世界最強のはると君がいるから、心配いらないよ!」
「なるほど! それなら安心ですね」
あかねは期待しているような眼差しを俺に向ける。
えーとこういう場合は
「任せておけ」
俺は静かに呟くと、二人に背を向ける。
またノリで答えてしまったぞ!?
なんで俺が期待されてるの!?
世界最強だから!?
確かにそう呼ばれてはいるけど、それは周りが持ち上げているだけだぞ!?
仮によ? 仮に世界最強だとしてもだよ?
その怪物を相手にするのは無理だろうよ!?
なぜこちらの力と、相手の力を見比べる前に結論を出す。というかなんで俺はそこで、自信がないの一言も言えないんだよ。
任せておけとか言ってしまったら、いざという時に手助けしてもらえないだろうが。
退路を立つな馬鹿。
ここで何も言わないと勘違いされるだろうが!
俺は自分の性格の悪さを嘆いていた。
痛いおっさんじゃねえんだから、少しは素直に……ん? あれは?
俺の目にふと、とある存在が映る。
「なあ? あれは魔物なのか?」
俺はミスティに聞こえるように、美しい翼を持つ光る存在を指差した。
なんだかヤバそうだなあれ。
「どれ? ってマッ!? あれは大天使!?」
そのミスティの声には、どこか驚きのようなものが滲んでいるように聞こえる。
天使、つまり神であるミスティの仲間ということなのだろうか。
さすがにそれくらいはなんとなくわかるよ。
となると、ここは気にしなくてもいいのかもしれないな。
と、俺がその存在をスルーしようとした瞬間、大天使から機械的な音声が聞こえてくる。
「敵捕捉。対象。異世界の神ミスティ、以下省略。脅威度最低と認定。これより殲滅を開始する」
物騒な言葉が俺の耳に入った瞬間、心臓がドキドキと跳ね上がる。
あ? 聞き間違いだよな?
今殲滅って……
俺が大天使の様子を慎重に伺うと、それは口を大きく変形させ、エネルギーのようなものをためていた。
何何何何何何何!?
なんで口が変わるの!?
いやそれより、あのヤバそうなエネルギーは何!?
「チョー不味いよ! 大天使は今の私たちじゃ、ゼンゼン勝てないくらい強いんだよ!」
はっ!?
するとこの状況は!?
「えっ!? ということはそれはつまり?」
「ここで終わりということだよ……」
まさかのほとんど理解できないまま、ここで終わり!?
「あ! だったら、さっきの魔術、転移で逃げれば」
ナイスあかね!
こうやってピンチな時に、冷静な提案ができるのは良いことだぞ。
「ごめん。しばらくは使えないよ。だからここを乗り切る方法はない」
まさか打つ手無しと!?
「ごめん……こんなことに二人を巻き込んで……」
ミスティは申し訳なさそうにこちらを見る。
「そんな! 自分を攻めないでください!」
ミスティとあかねは、恐怖をまぎらわせるかのようにお互いを抱き合っている。
「エネルギー充填完了。大天使砲(ゴエティア)」
謎の単語の直後、激しい光の塊が、俺たちに向かって一直線に飛んでくる。
ヤバいヤバいヤバいヤバい。
こんなのに当たったら死んでしまうぞ!? どうする!?
そうだ! 下にしゃがめば可能性はあるかも! いや無理か? しかし何もしないよりはましだろ!
であれば早速二人にも駄目元で提案を。
「「……」」
俺の目に映るのは、ミスティとあかねが、まるで運命を受け入れるかのように、瞳を閉じている姿だ。
「……」
その光景を見て俺の心は、情けない気持ちでいっぱいになる。
二人は今望まぬ結末を、静かに受け入れようとしている。反対におっさんの俺は、じたばたと惨めに足掻いている。
これでいいのか? 俺?
認めてないとはいえ、周りから世界最強と呼ばれる身で、この体たらくはあり得ないだろ。
それならこんな時、何も考えず、ふさわしい行動とやらをとるのが当たり前だろう。
「少し下がれ」
俺はあかねとミスティを庇うため、前に出る。
「「はるとさん(くん)!」」
今、絶体絶命のピンチな状況。
できることはこれくらいしかない。
そして俺は迫り来るエネルギーを、真っ直ぐ見て、言葉を漏らす。
「弱いな」
異世界という訳のわからない場所で、俺は何もできないし弱い存在だ。
しかし、今はそんなことはどうでもいい。
今という最後くらいは、世界最強として、恥じない散り方をしたい。
それと。
俺は後ろの二人に首を少し向ける。
「怯えるな。その目にしかと焼き付けろ」
こんな時だが、二人ともあまり怯えないでほしい。
「はるとくん、このピンチに何をするつもりなの!?」
「こんな時に何を!?」
俺はそれらの問いに、答える余裕はなかった。
今はただ目の前に迫る脅威に、全神経を集中させる。それだけ。
「ここは片手だな」
俺は片手を前に伸ばす。
ヤバい、両手を出そうとしたのに、震えで片手しか上がらない。こんななめ腐った最後なんて、あり得ないだろ!?
「っ!」
ええい! もう迷っている暇はない!
眼前まで押し寄せてきたエネルギーと、俺の片手が一つに重なる。
「脆いな」
ヤべえ!!
このエネルギーが熱すぎて、手の皮がむけてきた!!
何でこんなにも脆いのかな、俺の手はさ!
「上だな」
と、とにかくこれを上にあげよう!
これ以上耐えるのはもう無理!
俺は意を決し、無我夢中でそれを勢い良く空に打ち上げた。
「エラー! 理解不能。これより目標の行動履歴を解析」
大天使から歪な機械音が鳴る。
あれ!?
まさか、俺があの攻撃を防げたのか!?
気がつくと俺の前から、エネルギーは消えていた。
本当ならあそこで、二人の盾として散る運命だったはずなのに!?
「ふっこの程度か。なら次にやることは一つだな」
っていかんいかん。
考えるのはあとだよな。
今回はなんとか防げたが、次に同じことが起きたら、どうなるかわからない。
「解析中」
「いくぞ」
俺は大天使が何かを呟いている隙を突き、奴の上空へと飛び上がる。
ここは攻撃される前に、こちらから仕掛ける。
本当はこんな物騒な存在に近づきたくはないが、二人を守るためだ。
仕方がない。
どこまでやれるかわからんが、やれるだけやって見よう。
「解析完了。不可事象と認定。これより対象の殲滅を優先」
大天使は、俺の接近に気づいていない様子。
攻撃しても問題ないよな?
俺は拳に力を込めて、下の大天使に向ける。
「エラー! 一対象の消失を確認。現在位置は……」
大天使がギョロリと、こちらに首を向けてくる。
気づかれたか! だがもう遅い!
「終わりだ」
俺は一気に大天使の元に飛び込む。
そして力の限り、拳を勢い良く振り下ろし、その体に直撃させた。
「……判定。損傷リ率、0%ト。現在受けたダメージから、最適な反撃を開始シする。承ウ認。敵の脅威度をヲ無しと認定。エらー。これより機能停止に移行ウ。繰り返す機能停止シシシシシ……」
耳障りな警告音のような物が聞こえたあと、大天使は沈黙した。
「どうやら倒せたみたいだな」
それより。
俺は拳を激しくさする。
めちゃくちゃ痛えええ!!
何あの硬さは!?
俺ただ殴っただけなのに、手が真っ赤なんだけど!?
自慢じゃないが、今まで生きてきた中で、こんな風になったことはないんだけど!?
◇
「す、凄い……まさか一瞬で敵を葬るなんて……」
「マジ!? あの大天使を倒すなんてチョー凄い!」
大天使を打ち倒したあと、あかねとミスティが嬉しそうに、こちらへ駆け寄ってきた。
「二人とも怪我はないか?」
「はい! はるとさんが助けてくれたので、どこも!」
「やっば! 敵を倒したあとに涼しい顔ができるとかマジカッコいい!」
俺を見る彼女たちの目は輝いている。
しかし、次の瞬間、あかねが俺の腕を掴んできた。
「手が真っ赤! はるとさん、まさかさっきの一撃で怪我を?」
「大変! 爆ソクで回復魔術を使うから手出して!」
待って! そんなに近寄られるとか無理!
「っ」
俺は顔が熱くなると、手で二人を制す。
「不要だ。それよりも行くぞ」
「「でも!」」
「今は話しよりも、行動あるのみだ」
俺は二人に背を向け、適当に歩き出す。
「あの怪我でもクールさを崩さない、はるとさん凄いです! いつになるかはわかりませんが、いずれその隣にいってみせます!」
「あの傷を受けてなんともないなんてね~! これはもう異世界を救うのも楽勝だね~!」
「さっさと行くぞ」
俺はその言葉が恥ずかしかったので、とりあえず二人についてくるよう、首で促した。
◇
二五歳の女子高生からの告白と、神を名乗る少女からの謎のノリから始まり、なんとなくできてしまったこの異世界。
未だに俺の中で、神や魔術、魔物等について意味不明なところが多い。
そんな流れについていけない、頭の硬いおっさんの俺だが、確かに言えることがいくつかある。
手が痛ええええええ!
大天使怖えええええ!
マジウケルウウウウ!
「とりま異世界ヤべえ!」
世界最強のクール系の口下手おっさん、異世界に行く。 ~25歳の僕っ子JKから告白、神を名乗るギャルから転移してほしいといわれました。同時に絡まれるとか訳がわからない。~ @and8
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