第8話
違和感を抱えているように見えた――か。
さすが《プロ》にもなると観察眼も鋭くな……ガキの俺がわかりやすいのか。
どっちにしても俺が彼に訊きたいことは一つだけ――
「俺たちに見せてくれたピッチングは言葉通りお手本であって、試合では別のフォームで投げてますよね?」
「どうしてそう思ったんだい?」
「……なんとなく、しっくりこない感じがしたから」
そう答えた俺に対して彼は、
「くっ、くくく。……いやぁ、テレビ中継とかは観ていないって
愉快そうに笑いながら俺の頭を撫でてきた。
「さて、そんな君がこんな質問をしてきたってことは俺の本当のピッチングを見たい、って事がよく解ったけれど……どうしてだい?」
狩野……選手が頭に手を乗せたまま徐に訊いてきた。
どうして? そんな事は決まっている!
「将来はプロ野球で奪三振王を獲りたいからです!」
「へぇ、それはどうしてだい?」
どこか試すような眼差しを受け、俺は堂々と答える。
「俺の球に空振って悔しがるバッターの顔を見るのが好きだから!」
そんな俺の答えに彼はきょとんとしてそれから――
「ぷっ……くっ、くくっ……あはははははははははは! き、君……本っ当にいい性格をしているねぇっ!」
俺を大爆笑で褒めて? くれた。
それはそれとして、俺はどうしても狩野……選手の投球が見たいっ!
「俺の性格はともかく、狩野……選手の投球を見せてくださいっ!」
「……俺の名前を憶えていないのはともかく、
「おぉっ!」
苦笑を浮かべつついつの間にか手にしていた軟式用のボールを指先で回転させる彼に期待の眼差しを向けた。
「さて、投げる前に――「おい、そこのフロ野球選手。人様の子供に何を吹き込むつもりだ?」」
「父さん」
空き地を仕切るブロックの壁から距離を取った狩野、埼? 選手が俺に何か言い掛けた処で知った声が被さり、振り返ると何故かジャージ姿の父さんが胡散臭さいものを見るような顔して立っていた。
「なんでジャージ……てか、フロ野球選手って何?」
「ん? 『プロ野球』のプロと『浮浪者』の浮浪を掛けただけだ」
く、くだらねぇ。
「くだらないのは同意だが、間違ってもねーよ。なぁ、透真?」
顔に出てたのか、父さんがそんな事を言いつつ当の
「
うわぁ……。
だけど、年俸の額がどれくらいか知らないけど……一般家庭で考えると充分生活していけるのは明らかだ。
ふと、親友とはいえ父さんがなんでそんな裏事情を? と思ったけど、スポーツ紙のカメラマンだった。
確か学生時代に軽く始めたつもりが、野球の次にどっぷりハマって――そういう経緯を経て引退後に今の職に就いたらしい。
「おいおい、人のプライベートを暴露しないでくれよ。学生時代に見たグラビア誌に影響を受けてカメラを始めたムッツリくん?」
「なっ!?」
「…………は?」
今、なんて……グラビア? む、ムッツリ?
「夏の部活がオフの日は海やプールに出掛けて水着の女の子たちを撮ったり、コスプレ? の撮影会があれば美人のレイヤー? さん撮ったりしてたもんねえ」
「テメッ!? お前こそ学生時代に年齢偽って年下、年上構わずラブホに連れ込んでただろーがっ!」
「あっ、あっ! それ言っちゃう!? 大切なカメラやその他機材諸々に小遣い注ぎ込んで金欠だった君にバイトを紹介したのは誰だったかなぁっ!」
「何度も補導されかけてその度に逃走ルートを確保したのは誰だった?」
なんか、子供みたいな口喧嘩が始まったんだけど……。
正真正銘、子供の俺はどうすればいいんだろう?
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