第7話
ランニング、ストレッチ、キャッチボールとメニューを消化していって守備練習に入ったところで投手組、内野組、外野組の三つに分かれそれぞれに特別コーチが付くことになり、投手組にはあの狩野……選手が付いた。
始まる前に「俺も投手が~」なんて声がちらほら聞こえていたから予想通りもなにもないけど、そうかそうか。
これは――チャンスだ。
久東から聞いた話によると、彼は二年連続で防御率トップと奪三振王の2冠を獲得――《プロの》奪三振王ということは、彼こそ俺が目指す理想の投手って訳で、この機会に目の前の彼から盗める
だいたいプロ選手に接触する確率なんてほぼ0だ。今を逃せば次は絶対にない。
そんな決意を胸に挑んだのだけど……。
「それじゃあまずは君たちの投球を十球ずつ見せてもらおうか」
そんな指示から始まり一人ずつブルペンに入って十球ずつ投げ込んだ後は、狩野……選手が各自に改善点やそれに対するアドバイスしていく。終始そんな感じで投手組の講習は終わり、個人的には何の収穫も得られないままバッティング練習に突入した。
一応、アドバイスのお蔭で今まで以上に安定性が良くなったのはいいんだけど……。
滞りなく今日の練習が終わろうとした頃、チームメイトたちから「狩野埼選手のピッチングを生で見たい!」と声が上がり最後に一球だけ見せて貰える事に――
「参ったなぁ。今回はあくまで君たちのお手本になる投球にするから特に投手陣は参考程度に留めておいてくれるといい」
そう言って投げられた球は今まで見てきたどのピッチャーよりも鋭くて速かったし、流れるように滑らかな投球フォームも決まっていてこれぞ《プロ》って思わされた――が、当人がお手本と宣言していた通り、基本に忠実な見慣れたオーバースロー。
だからなのか判らないけれど、どことなく違和感が……そもそもテレビ中継を観ないからその正体が判る訳もない。
講習と銘打った練習も終わり解散の前には三人の特別講師は帰った後で、狩野……選手にサインをもらおうと思っていたチームメイトたちが一様に肩を落とす中、俺は別の理由でがっかりしてグランドを後にした。
――後にしたのだが、
「やあ。待っていたよ」
「え?」
既に帰ったと思っていた狩野……選手が隣接する第二グランドの陰から声をかけてきたのだ。
「なん――「しっ、こっちへ」」
驚きつつ理由を訊ねようとしたら遮られて駐車場へと連行された。
※
「えっと、どうして《此処》に?」
彼の車に乗せられ着いたところは、何故か俺の家の裏にある空き地。
「最初に君の顔を見て《あいつ》の面影が見えてね」
「はあ」
「くっ、……その、無自覚で気のない態度……本当《あいつ》そっくりだよ」
よく解らないけど、俺がその《あいつ》という人物に似ていることが面白いらしく肩を震わせながら彼は、
「《萌條》って言ってたよね。ひょっとして君のお父さんって
「っ!?」
特大の爆弾を投下して俺は驚愕に固まった。
確かに《禮司》は俺の父さんの名前で一応は社会人野球の選手だったけれど、まさかプロの狩野……選手が知っているのは意外に思い――
「その
「ヤンチャて……」
訊ねる前に前に父さんとの関係を冗談交じりで話され逆に毒気が抜ける。
そんな俺に追い打ちを掛けるように彼は言った。
「とまあ。俺が君をここに連れ出したのは送るついでに君が俺の投球を見て違和感を抱えていたように見えたからその理由を訊こうかと思ってね?」
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