第5話

「今のチェンジアップで決めるつもりでしたが、やはり簡単にはいきませんね」

「いやいや、同じ球を続けてあのチェンジアップは正直危なかったよ」


 俺たちの間には静かながらも激しい火花が散る。


「ひゅぅ~、熱いねぇ。ジャージ脱いでもいい?」

「茶化さないでくれ……」


 この娘は……神樂塚さんに締められた? ばかりなのに反省してないの? 露出狂なの?

 お蔭でさっきのライトグr――いやいやいやいや、勝負に集中させてくれ!


 視線が切れていた隙に神樂塚さんは投球モーションに入って既に腕が半周したところ――って、マズッ!!


 どんな理由であれ勝負中に余計な事を考えた自分が悪い。けど……幸いにもまだ捉えられる射程圏!


 俺はバットを――


「――――っ!?」


 伸びのある球が急激に更に威力を増し強襲してきた事に、思わず振り切りそうだったバットを退いて体を反らした。


 スパァンッ!


「う~ん。相変わらず良いキレの《ライズボール》! 流石みことんって言いたいところだけど、残念ながらボールだね」


 感嘆の言葉を漏らしながら返球する蓮見さんの横で俺は冷静を装っていたけれど、内心驚愕すると同時に『危なかった』と安堵した。


 ソフトボール……侮り難し!


「よっ。出ました《風車姫》の伝家の宝刀・ライズボール!」

「あれは初見で手を出そうなんて思えない。つか手が出ない」

「それ以前に俺なんか最初の三球だけで三振する自信がある」

「奇遇だな、俺もだ」

「むしろ《風車姫》のライズボールを全身で受け止めたい!」

「「「うぅわぁ~~~~……」」」


 いつの間にかベンチで見学していた野球同好会メンバーの会話が聞こえ、ドン引きされてる一部はともかく気になる単語があった。


「《風車姫》?」

「ああ、あの人たちが勝手に付けたみことんのあだ名。みことんのアレって風車投法ウィンドミルって言うんだよね」

「ああ、そこから取ったのか」

「多分ね。でも、この風車投法ウィンドミルはみことんにとってが――」

「ヤヤ。無駄口を叩かない! 萌條さんも勝負に集中して下さい!」

「「ごめんなさい」」


 二人して神樂塚さんに謝った。


 ワザと狙われたような気もしなくはないが、ツーボール・ツーストライクと追い込まれてはいるものの勝負はまだついていない。

 現時点までで開示された彼女の持ち球カードは、《ストレート》《チェンジアップ》《ライズボール》の三種類。まだ明かされていない変化球切り札の数によって戦略が変わってくる。


 それにしても、成り行きで始まった勝負とはいえたった四球だけでワクワクしてきて楽しんでいる自分に呆れる。

 マウンド上の神樂塚さんあの子以来忘れていた勝負の昂揚感を思い出させてくれた。


 だからこそこの勝負は思いっきり楽しんで――俺が勝つ!


     ※


 あれから一進一退の攻防が続き、スリーボール・ツーストライクいわゆる《フルカウント》の膠着状態となった。


 初めて会った数時間前では予想もできなかった。


 目の前の勝負師かのじょは本当に楽しませてくれる。

 最初の三種の球種カード以外で投げら開示されたのは、《カーブ》《シュート》《ナックル》そして、《ライズボール》とは真逆で穿《ドロップ》。いやぁ、あれはエグイ……ストライクゾーンから急激にストン! だ。《フォーク》といい勝負だな。


 四球目を見た後に示唆した《球種の数だけ戦略が変わる》っていうのは、だ。


 例えば同じ《ストレート》でも、《インコース》か《アウトコース》はたまた《ど真ん中》。さらにそこから分岐して《高め》か《低め》にと数通りの投球が出来上がる。つまり、って事。


 とにかく最早何球目になるか判らないが、さすがの彼女も疲れが見え始め肩で息をしている。


 かくいう俺もそろそろ……――っ!



 あぁ、もう……。

 



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 いまだシステムに慣れていない、機械音痴の駄作師こと子乙女ねのおとめ壱騎いっきです。

 正直此処で行うべきではないと思いますが、敢えてこの場を以ってお礼をしたいと思います。


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       誠にありがとうございます。



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