第2話
何とかお互いに落ち着きを取り戻した俺たちは、場所を移しグラウンドの片隅にあるベンチに並んで座った。
「さ、先ほどはお見苦しいところを……」
「いやいや、あれは全面的に俺が悪かったから……と、取り敢えずさっきの事はお互い忘れよう!」
「え? それは……そう、ですね……」
これ以上引きずらないよう明るく振舞ったつもりだけど、寂しげに俯き同意した彼女の姿が心なしか、不満げに見えるのは俺の思い過ごしだろうか……。
ガキの頃から野球ばかりでそっち方面の経験値は最底辺だ。そもそも女の子、異性を前に緊張する俺が察せるとでも? テンパって自爆するのがオチ――って、眼前の美少女相手に自爆した後だったよ! それも彼女をも巻き込んだ二次災害付き!!
改めて、共学とはいえよく
編入する学校を間違えたと若干後悔していると、彼女が「あ」と小さく零し俺の方に向き直って姿勢を正した。
「今更ですみません。私は
彼女、神樂塚さんが最後にぼそりと付け加えたセリフは気になるけれど、むやみに詮索するのは失礼だろう。
「あ、俺は萌じょ――」
「萌條司さん、ですよね?」
「あ……」
ここで自分の思い違いに気付いた。
元女子校であれば女子はもちろん、そんなとこに通う男子は当然スポーツ関連のニュースには興味がないだろうと思い込んでいた。
そんなものは個人的偏見で女子だからってみんながみんなスポーツに興味がない、なんてことないのに……。
結局、どこに編入しようが
過去というには大袈裟かもしれない、あの悪夢の日からまだ二か月弱――名前を呼ばれるだけで過剰に反応するほどに負った傷は癒えていない。
「すみませんっ!」
「え? あっ、こっちこそごめん。ただの自己紹介なのに緊張し過ぎただけだからっ!」
いきなり謝ってきた彼女に驚いたけれど、おそらく俺が鬱になった理由を察しての事だとすぐに気付き慌ててこっちも頭を下げる。
「私が確認するような訊き方をしたのがいけなかったんです」
「いや、それはいいんだけど……えっと、神樂塚さんは俺の事はテレビなんかで……」
「そうですね。それとは別に萌條さんの事は前から見ていました」
「え? 前からって……」
俺の質問に対する神樂塚さんの答えに困惑した。
自分で言うのもなんだがテレビや新聞なんかで見たのなら解る。
同じ都内とはいえ俺は此処からだいぶ離れた地区から来た。だから、彼女が「前から見ていた」という発言に違和感が――いや、都大会なんかを観戦していたのなら……注目されていてもまだ無名に近い存在だったような……。
俺自身に係わる以上無視はできない。できないけれど、踏み込んでいいのか――
「今はバットを振っても問題はありませんか?」
「はい?」
唐突な質問に面食らった。
「今はバットを振っても問題はありませんか?」
真剣な表情で同じ質問をする神樂塚さん。その思惑は判らないけど正直に答える。
「軽く流す程度なら問題ないよ。長時間は無理だけど」
そう答えたのち、彼女は「それなら大丈夫ですね」と呟くと、その可愛らしい
「萌條さん、私と勝負してください」
「…………はいっ!?」
スポーツバッグを提げていた時点で何らかの運動部であることは察していたけれど、なぜこの流れで彼女と《勝負》する事になるのだろうか?
「私はあなたが何故ここに編入してきたのかは大体理解しています。ですが、あなたは私の事を何も知らないからフェアじゃありません」
「俺たちは初対面だよね? いや、神樂塚さんが俺の事を知っていたとしてなんで《勝負》しようって話になるのっ!?」
いまだ困惑する俺に対し神樂塚さんは妖艶な笑みを浮かべ――
「私との勝負からも逃げるのですか?」
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