るいきゅう! ~廻せ、栄光への桜風車!~
子乙女 壱騎
第1話
俺は一体何をしているのだろう。
制服のままヘルメットを被りバットを構える視線の先には、マウンド上でセットポジションから今まさにボールを放たんとする、同じく制服を着た一人の少女。
真剣勝負を挑まれたからには手を抜くつもりはなけど、俺は名のある
と、無意識のうちに相手を見下した挙げ句見落としていた。その野球と似て非なる球技の投手が投げる球質を――
「ぅおっ!?」
想定外の威力で唸りを上げ真っ向から襲い来る、彼女の一回転する華奢な細腕から繰り出された剛速球を呆然と見送った。
○ ● ○ ● ○
俺、
一年生で半端なこの時期に編入した事で悪目立ちしてしまったけれど、元が伝統ある女子校だから当然女子が多く居心地は悪いけど、だからこそ俺には都合がよかった。
編入一週間も過ぎればそれなりに慣れるもので、圧倒的女子率には変わらず落ち着かないものの、クラスの数少ない男子グループに快く迎え入れられ幸いボッチとして肩身の狭い思いはせずに済んでいる。
放課後は帰宅部で授業が終われば早々寮へ帰る。
そもそも男子の部活動は少ない、というより人数が集まり難いという事で同好会という形になっている。
仮にどこかの同好会に所属しようとしても今更って感じはもちろん。それに――いや、考えるのはやめよう。
「あ……」
たまには遠回りして帰ろうと思い立って行き着いた先は、河川敷にある櫻花学院第三グラウンド。
フェンスの向こう側では数人の練習着姿の男子が和気藹々とキャッチボールをしていた。
その様子を見て……心に黒い靄が広がる。
――ウラヤマシイ、ネタマシイ、マザリタイ、アノハクキュウヲゼンリョクデナゲタイ、オレハナゼ、オレハ……ナゼ、コンナ…………。
「――……すか? あの、私の声が聞こえますか?」
「――はっ!?」
唐突に掛けられた声で我に返って振り向くと、肩からスポーツバッグを提げた制服姿の少女が心配そうな顔で見つめていた。
「あの、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ~、大丈夫大丈夫。気を遣わせたみたいで……」
「いえ、私が勝手に声を掛けただけなので……大丈夫なのでしたら良かったです」
そう言って微笑む姿にドキッとした。
運動の邪魔にならないように切り揃えられた(個人的主観)艶やかなショートヘアに整った顔立ちの中性的で凛々しい美少女。
「あの、私の顔に何か付いてますか?」
こてん、と小首を傾げる見た目に反した(失礼)可愛らしい仕種や話し方のギャップも魅力的で――
いや、そうじゃなくって。
「いや、そうじゃなくって」
「はい?」
あ……彼女を観察してる自分に対しての突っ込みがそのまま口から……。
あ~、どうする!? 早く何か言わなければ……首を傾げたまま困惑した表情で固まる姿も絵になって――だから、そうじゃなくって!!
あ~、あ~、あ~、あ~……――
「あ、あ~……そ、そうっ! キミがキレイでかわい過ぎて見惚れて、た……だ――っ!?」
なに言ってんの!? ホントなに言っちゃってんの!?
初対面の女の子相手に俺はなにブッ込んじゃってんのーっ!? 実際そう思ってたけどさ……キモ過ぎるからっ!!
おそるおそる彼女の様子を窺うと、
「か、かわっ!? き、きれ……あり、ありがと、ごじゃ……ますぅ~~。は、はぅ~~っ……」
耳どころか顔を覆い隠す手まで真っ赤に染め上げ、その場でうずくまり身悶えていた。
そんなウブな反応も可愛らし――ちっがぁぁうっ! あ~っ、ち、違わない……けど、めっっっっちゃ気まずいぃぃぃっ!!
暫し俺は総てを放棄するように天を仰いだ……。
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