「第十話」切断厨と不法侵入者
薄暗い屋敷の中、アタシはひとりでに動くマネキンを睨みつけていた。糸や機械などといった現代の科学によって理解できる範囲を超えた、そんな、規格外の力により動かされている異形を。
「なに、あれ……マネキン?」
「いいか雷火、絶対に離れんじゃねぇぞ」
取り出したフライパンを握りしめ、アタシは正面からの突撃に備える。──通路の奥より、それはいきなり突っ込んでくる!
「おっせーんだよ!」
振るわれる人形の腕を横に避け、壁を蹴った勢いそのままに蹴りかかる。地面に組み伏せ、そのまま横薙ぎに振るったフライパンで頭部を殴り飛ばした。
(どうだ?)
相手は何しろ生も死も存在しないマネキンだ。定石通りに頭を破壊すれば死ぬのか、それとも粉々にして動けない状態にしなければならないのか……それすらも手探りだった。
動く。
首が無くても、動く!
「畜生!」
掴もうとしてくる腕を逆に掴み返し、そのまま引っこ抜く。投げ飛ばし、殴り飛ばし……とりあえず四肢をバラバラにしてやった。
それでも動く。
もぞもぞ、と。再び一体のマネキンとして成立するために!
「っ、雷火!」
「えっ、ちょっ……どこ行くの!?」
「逃げながら戦う!」
アタシは再生しつつあるマネキンの腕を遠くに蹴飛ばしてから、通路の奥へと走っていく。
「よく聞け雷火、アタシたちはこの屋敷に完全に閉じ込められてる!」
「……えっ、ええっ!? どうして!?」
「知るかぁ!」
あのマネキンは恐らく物理攻撃では倒せない。倒すには壊す以外の方法を何か見つけなければならない……だが、それよりももっと効率的な勝ち筋がある。
「んで、アタシたちを閉じ込めた奴がこの屋敷の中にいるはずだ!」
「えっ、なんで!? 金華ちゃんには分かるの!?」
「結界っつーもんはとにかくなんでも遮断しちまうからな、結界の外からあんな風に人形を操るのは無理なんだ。とりまそいつ探してぶん殴るぞ!」
「うっ、うん!」
とはいえ、だ。
戦えない雷火を連れたまま、いつどこにどれだけの敵がいるのか分からない状態……しかも、敵の一体一体が直接倒せないというクソルール付き。
生前の肉体ならまだしも、女の体でできることには限度がある。
やれるのか、今のアタシに。
守り切れるのか、今のアタシに。
(……いや、やり切る)
これはチャチな口約束でも冗談でもない。
アタシは誓った。必ずこの人を、この人を害そうとする全てから守り抜くと!
「っ、前!」
雷火の声が響く。目の前には、二体のマネキンが迫っていた。
「どぉおおおおおけぇええええええええええええ!!!!!」
フライパンを横薙ぎにフルスイング。マネキンの脇腹に突き刺さったそれは、そのまま隣のマネキンごと殴り飛ばし……屋敷の壁をぶち破って外に殴り飛ばした。
「行くぞ!」
「……うん!」
手を掴み、引っ張る。
もう二度とこの手を離すまいと、歯噛みしながら。──足元に何かが引っかかる。直後、前のめりに倒れ込んだアタシの顎が地面に思いっきりぶち当たる。
「ぐぇぁっ」
「わっ、大丈夫!?」
「あ、ああ……畜生、カッコつかねぇな」
一刻も早く結界だの人形を操ってる奴を見つけなきゃいけないってのに、畜生。誰だよこんなところにケーブル張ってるやつ……ん、待てや。ケーブル?
「えっ、金華ちゃん?」
「……これ、どこに続いて──あっ」
ケーブルの先は、つい隣のドアの向こうへと続いていた。
中からブツブツと声のようなものも聞こえるし、人の気配がする。
「……」
「……」
アタシはそろり、そろり……フライパンを片手に、そのドアを思いっきり蹴り破った!
そして、そこには。
「クソがっ! 死ねっ、死ねっ……ああクソッ、なんなんだよこいつ! ク◯ウド使いはこぞって空後ばっか擦りやがって!」
真っ暗な部屋の中、デカいスクリーンの目の前で格ゲーしてる暴言黒髪女がいた。
「……おい」
「ああ煽ったな!? あ!? 今煽ったよなお前ェ! おーしいいよリトマの横スマぶっぱ見せてやるぅぅぁあぁぁぁあ復帰阻止やめろぉおおおおおおおおぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
切断しよ。悟ったようなその一言と同時に、女はゲーム機の電源をぽちっと落とした。
「……ふぅ、ボクとしたことがまたつまらぬ物を切ってしまったよぉ……ってあれ、なんか明るいな──ぇ」
ヘッドホンを取り外し、こちらを呆然とした顔で見てくる暴言女。
「よぉ、お前が蘆屋か?」
「……」
わなわな震え出す女。その顔は、とっても青ざめていた。
「ゲームは楽しかったか? じゃあ、次はアタシとゲームしようぜ」
「……ふ」
アタシが指をばきり、ごきりと鳴らすと、次の瞬間。
「小細工無しのリアルス◯ブラをなぁ!!!!!」
「不法侵入者だぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあ!?!?!?!」
ぎゃああああ!!!
断末魔は瞬く間に屋敷中に響き渡った。
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