「第八話」先生からの頼まれごと
「終わった」
帰りのホームルームが終わり、ざわめく教室の中でアタシは絶望を噛み締めながら机に突っ伏していた。聞いてない、聞いてない……六時間目、最後の最後いきなり漢字テストがあるだなんて聞いてなかったのに!
(あーんのクソ教師……次は絶対満点取ってぎゃふんと言わせてやる……!)
心にそう誓ったアタシ。しかし、やっぱり悔しいものは悔しいし全部空欄の解答用紙を提出してしまったことには変わりない。これがバレでもしたら、アタシは今度こそ容赦なく飯抜きにされてしまう。
「……最悪だぁ」
「金華ちゃん、大丈夫?」
「あっ、雷火ぁ」
隣の席にはいつの間にか雷火が座っていた。
「テストが駄目だったんだ。ノー勉だったからボッコボコで……ううっ、母ちゃんには言わないでくれぇ頼むよぉ!」
「落ち着いてよ金華ちゃん。大丈夫、金華ちゃんのご飯は私が作ってあげるから!」
「お、おう。サンキュー……?」
そうだけどそうじゃない。まぁ、結果的に大丈夫そうだからいいけど。
「ふぅ……んじゃ、帰るか。バスに乗り遅れても困るし」
「あっ、それなんだけど……先に帰っててくれないかな。ちょっと先生から頼まれ事されちゃって」
頼まれごと? アタシが面を上げると、雷火はコクリと頷いた。
「ほら、あそこの席……蘆屋さんなんだけど」
「蘆屋?」
なんだか急に懐かしい名前が出てきたな、多分”アイツ”とは別人だろうけど。
「蘆屋さん、昨日から一度も学校に来てないでしょ? 先生たちの間でも、家に連絡が取れないらしくって。プリントとか教科書とか届けるついでに様子を見てきてほしいんだって」
「はぁ? そんなのアタシたちがやることじゃねぇだろ、適当に突き返せばよかったじゃん」
「いやぁなんというか、うん……あはは、断れなかったんだよね」
ああ、そうだった。
この人は頼光さんに似ているんだった。お人好しなところも、別にやらなくていいどうでもいい頼みごとも引き受けてしまうようなところも……そういうとこ、ぜーんぶ似てるんだった。
「……うっし、じゃあアタシも行くわ」
「えっ、いいよいいよ別に。私が頼まれたことだし」
「そうじゃねぇよ」
席から立ち上がり、鞄を肩にかける。
「守るって言ったろ? 一人じゃ、危ないだろうし」
「──うん」
少し頬を赤らめ、雷火はその場から立ち上がった。
「じゃあ、お願いしようかな」
「おうよ! んじゃあさっさと行って、さっさと帰ろうぜ」
うん! 雷火の元気な返事に、自然とアタシも笑みがこぼれた。
アタシは教室を出て、そのままいつもとは違うバス停に向かった。
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