「第四話」素敵な友達
外はすっかり暗くなってしまっていた。
街灯の光の下、アタシは雷火さんと歩道を歩いている。
「……」
「……」
気まずい。
気まずすぎる。
まぁ当然といえば当然である。
ついさっきまで誰もいない放課後の教室の中でお互いを抱きしめ合い、あろうことかその様子を中年の女教師(クラスの担任)に目撃されてしまったのだから。
(全力で弁解したけども、駄目だろうなぁ……ああいう類の話はすぐに広まるし)
別に色恋がどうのこうのを気にするほど初心ではないが、それはあくまでアタシの場合だ。
前世が男……みたいなトンチキな事情でもない限り、雷火さんが同性であるアタシとの関係性を誤解されるのはあまり好ましくないだろう。
「あの、金華さん」
「ん? ああ、どうした?」
まぁ考えても仕方ないか。
アタシは雷火さんの呼びかけに応じた。
「さっきはありがとうございました。なんていうか、今はちょっと楽です」
「ほんと気にすんなよ〜? 雷火さんは悪くねぇ、悪いのは妖魔共なんだからな!」
「……金華さんは、怖くないんですか?」
「怖い?」
「化け物のことですよ。朝の大きな顔も、金華さんはフライパン一本でやっつけちゃったじゃないですか」
いやまぁ、怖いというかなんというか。
鬼を筆頭とした数多の妖魔畜生を屠ってきた身としては、あんなのは怖いの内に入らないというか……雑魚っていうか。
「私は、怖いです」
「……はぁ」
あんまりこういうことを、はっきりと口に出すのは好きじゃないんだが。
「怖いなら、守ってやるよ」
「え?」
うわ、駄目だ。
凄く恥ずかしい。
「守るって……えっ、え?」
振り返り、ずいっと近づいて言い放つ。
「……あっ、アタシが守ってやるって言ってるんだよ!」
「──」
沈黙。
両者動かず、互いを見つめ合っている。
(しにたい)
今すぐにでも体の内側から恥ずかしさで爆発してしまうんじゃないかと思う。
「……ふ、ふふっ」
「なっ、なんだよ」
「あはっ、あはははっ、あははははっ!」
急に笑い出す雷火さん。
でも、ただ笑ってるわけじゃなくて、目尻に涙も浮かべていた。
「おいおい、えっと……ええ?」
「ふふっ、大丈夫ですよ。嬉しいんです、ただただ嬉しいんです」
笑い止んで、泣き止んで。
雷火さんは、ちょっと頬を赤らめながら。
「素敵な友達、作れたなぁって」
「──」
恥ずかしさが、じんわりと別のなにかに変わっていく。
それがなんなのかは分からないし、こんな感覚は初めてだし……でもまぁ、嫌な感じはしなかった。──アタシはただただ、目の前の少女に見惚れていた。
「あの、金華さん」
「……あっ!? なっ、なんだ?」
「お互いにさん付けをやめませんか? 私も呼び捨てにするので、呼び捨てにしてほしいんです……雷火、って」
なんだ、これ。
なんなんだ、これ。
「……らっ、雷火!」
「ふふっ、これからよろしくお願いしますね。金華ちゃん!」
そう言って、雷火さんは再び歩き出した。憑き物が落ちたようにスッキリとした顔で、胸を張って歩いていた。
「……ふぅ」
とんでもない女だ、源雷火。
「もうちょいで、オチるとこだった」
自分で口にしてみて、体の内側からふんわりと熱くなっていくのを感じる。
もうとっくに手遅れかもしれないな。手で顔に風を送りながら、アタシは雷火のあとを追った。
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