第3話

 ガン!


 手放したライフルが真っ二つに折られて鉄くずと化す。剣の威力も然る事ながら、剣士の殺意に困惑と混乱が心を襲う。


「一体どういうつもりだ」

「転生者は生かしておく必要などない!」

「答えになってねぇよ!」


 転生者が理由なら理不尽も極まっていると思う。

 個人的な恨みなのか。口ぶりからして転生者をかなり憎んでいるようにも感じる。このままだと普通に殺される。


 背を向けて全力疾走するが炎を纏う矢が足下を掠めた。


「パーティー揃ってか」


 斬りかかってきた剣士の後ろにパーティーメンバーが揃いこちらへ身構える。


 1対4な上、こっちは転生したてで赤子同然。向こうがやる気ならもはや避けられない。


(無想生成を発動して武器を――けど、いいのか。魔王の倒すために与えられたこの力を人殺しに使って)


 ぐぅと握った拳。それは迷いの証だった。


「レスト!」


 四つの魔方陣から鎖が投射され、一瞬にして四肢が拘束されてしまう。


 鎖の表面には鉄の棘が生えていて皮膚を突き破る。焦って藻掻けば傷口を広げ、細い血液が腕に筋を引く。


 鋭い痛覚に目が冴えて声も出た。だが目の前の殺意が痛みを死の恐怖へと変えていく。


「動きは封じた。ノービス今よ!」


 転生直後で死ぬなんてどこの人気ラノベだよ――横薙ぎに振られた剣をもはや避けるすべなどなく死を悟った。


 だが剣は空を切る。青い魔方陣に包まれた瞬間、俺の身体に巻き付いていた鎖が割れ、ほぼ自動的に剣を避けていたのだ。


 刹那の挙動に俺も剣士達も唖然とする。


「レストが解けた」

「あいつの魔法か?!」

「いえ反応はなかったわよ! もう一回」


 困惑する隙を突き、両手に手榴弾を作って放る。


「少し痛いけど、我慢してよ!」


 耳と瞼を塞いで倒れ込み、至近で炸裂。

 くぐもった跫音と一瞬の白。それに反応してすぐに書けだした。


「前が見えない!?」

「奴はどこだ!」


 無想生成で作ったフラッシュバンとスモークグレネードが見事に決まった。


 FPSではお馴染み非殺傷の手榴弾だ。フラッシュは閃光で、スモークは煙幕で相手の視界を奪う。

 灰色の煙幕を抜け、体力が続く限り走った。もうあのパーティーの姿は見えない。


「なんだったんだ一体」


 モンスターを横取りされた腹いせか。だが随分と血気盛んな連中だった。


 あの女神、この世界のキャラ設定尖りすぎてるんだろ。そんなツッコミを飛ばしたかったが、多分届かない。


 ひとまずあのパーティーは危険集団として然るべきとこに報せるとして。


「ひとまず、街はどっち行けば良いんだ?」


 途方に暮れて空を仰いだ。戦闘があろうがなかろうが結局こうなっていたことに変わりない。


 なんで異世界転生物の作品は最初に街へ辿り着けるんだ? 現在地知れるだけでチートな気がしてきた。


 どっと疲れが押し寄せてきて、転生初日は野宿・・・・・・かと思ったが、遠くから声がしてきて身体が強張る。


 すがめてみるとさっき戦った奴らだ。しかしこちらには気づいていないよう――


「気づいてないなら」


 俺は無想生成を使い、ある物を作った。そしてそれを頭から着ると寝そべって自然に溶け込む。


 目の前を通り過ぎても擬態した俺に気づくことなく、そのパーティーは過ぎ去っていく。やがて諦めたのか、剣や斧を収め、くたびれた様子で森を去って行く。


 静かに草を踏む音さえはばかるように、その後を俺は追った。

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