第2話


 小説の評価と総閲覧数がステータスになる異世界――


 女神に誘われた世界は、どうやら本当に都合の悪い世界らしい。


 執筆歴三年の17歳『龍坂 カナメ』ことウェブでバズった作品を書いたことがない。


 ウケたいという思いで一時期、流行ジャンルの異世界転生物や追放物にも手を出した。「目指す目標へたどり着くにはまず人気から」と自分を縛り付けていたせいか義務感が強くなっていき、挙げ句は失敗を重ねて、社会的地位も失い不登校になった。


 現実逃避で暗い部屋の片隅で一人、『書きたい物』の執筆に没頭していた。寝食も忘れて自分の面白いを紡げるのが心の支えだった。おかげさまで書くのが面白すぎてそのまま死に。


 そして女神の間でのことに至ったわけだ。




 女神の間の床が抜けるなんて聞いていなかった。


 内臓の浮く気持ち悪さが一瞬した後に、真下を見て気絶。瞼を開くとそこは木漏れ日に照らされる鬱蒼とした森だった。


「芸人が落とされる感覚ってあんななのか。体張ってるなぁ」


 思わずこれは使えると脳内で何度も感覚を反芻している。


 どうやら着いたみたいだ。早速、自分のステータスを確認してみることにする。


「さてと、パラメーター」


体力20/45

魔力30/72

知力/不明 

努力値/不明 

レベル1/1 

ランク/不明 

スキル/メガミックアーツ――無想生成 サルベージマジック 努力値解放


 唱えると数値になって色々な値が視界に飛び込んでくる。全てが数値に表示されるのはさながらVRMMOだ。


 小説の人気がステータスになる。この数値は恐らく最低に近いのは女神の話で察せるが、レベルの上限が1なのは解せない。


 レベルが上がらないということは付随するステータスも伸び代がないということになる。早々死ぬなこれ。


 ガックリするが気を取り直してスキルを見よう。


「こういうときって近場に湧いたモンスターとかで力試しするのが定番だけど、ひとまずスキルを使いこなすとこからか」


 メガミックアーツ:無想生成をタップする。


 自創作の武器を魔力によって生成する――か。


 しかし俺の作風と、このファンタジックな世界観が釣り合わない気もする・・・・・・が、まぁ気にしたら負けか。試しに適当な武器を作り出してみよう。


 魔力を手に込めて頭に生成する武器の像を浮かべる。すると魔方陣が伝って、鋼鉄の塊が両腕にのし掛かった。


「おっも?!」


 生成されたのは長く太いバレルに巨大な制退器を取り付けた対物ライフルとその弾薬。


 スペック上はたかだか12キロだが、引きこもりが祟ったか遙かに重く感じる。


 バレットM82――現代では人を赤い霧に変えると恐れられている。ウェブ作品『ウェイポイントガール』で幾度となく登場する主人公『甘夏 未来』の愛銃だ。


「こんなの担いで走り回ってる未来とか化け物だろっと、ん?」


 ぼやきに混じった一瞬の重い金属音。すぐにその方へ向いた。


 遠くに見える二つの集団。片方は人間で、片方は人型だが皮がなく、黄ばんだ骨だけで身体ができている。


「骸骨・・・・・・魔物との戦闘か」


 さながら骸骨の騎士、ボーンナイトとでも言う奴か。黒ずんだ盾に鎧まで纏い、西洋騎士のような剣も持っている。 こいつを試す絶好のチャンスだ。そう思い、魔物との戦闘に足を近づけていく。


「てぇや!」

「ヒーリングレイ! 後ろをお願いします!」

「ファイアーアロー!」


 三体いるボーンナイトに対して、前衛の剣士と斧使いが敵の攻撃を引き受け、後ろから弓使いの援護射撃をして、消耗した味方を魔法使いが回復する。

 オーソドックスな戦術だが、程なくして前衛二人がボーンナイト二体を仕留める。


「ヒールを!」

「はい!」


 頭を砕かれて、淡い赤の光に代わった魔物が倒した二人に座れていく。アレはどう見ても経験値で、若干遠目から見ていた感動すら覚えていた。


 だがもう一体の存在が頭に過った瞬間、魔法使いの背中にそいつがいたことに気づく。


「まずい!」


 そこからはもう無我夢中だった。装填ハンドルを引いてスコープの十字を直感的に合わせ撃発。


 ひょろがりの体で対物ライフルの反動でふっ飛ばされて、背中を地面に思い切り打ち付けた。弾丸はボーンナイトの腕をガラスのように砕く。


「後ろに回ってやがったか!」


 最後は剣士と斧使いが頭蓋を砕き、魔物は駆逐された。


 だが経験値の一部がこっちへ入ってくる。パラメーターで確認すると、レベルの下の経験値が少しだけ入っていた。


「なるほど。魔物を倒せば経験値が入るってシステムか」


 光が身体に入るだけで感覚はなかった。


 だがそれを感心していたのもつかの間、さっきまで戦っていたパーティーが寄ってきた。


「さっきのはお前か?」


 剣士は眉間にしわを寄せて聞く。周りの面々もこちらを睨むように見つめていて、穏やかな雰囲気じゃない。


「そうだが、何か問題だったか?」

「・・・・・・転生者風情が! 死ねっ!」


 刹那の沈黙を置き、剣士は思いきり剣を振り下ろしてきたのだった。

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