底辺WEB作家異世界転生――人気=ステータスの異世界で設定無双したい

宵更カシ

第1話

異世界転生。


 それはラノベ、いや小説において最も読まれ、書かれている(当社比)ジャンルである。


 出版のみならずネットでも親しまれ、愛されるジャンル。小説を読み、書く誰もが夢見る展開だ。


 今、その異世界転生という奴に遭遇した。


「私は女神イステリア。おめでとうございます。貴方は世界を救う勇者に選ばれました」


 見渡す限りの真っ白い空間に、ぽつんと現れた一つの玉座。


 そこに座る凜とした瞳の美人。女神と言うだけあって清潔感があって柔和な笑みを浮かべている。


 現実離れした女神様の登場に思わず頬をつねった。痛みは少しばかりあるし、夢ではないな。


「あ、あのー」

「あぁすいません。えっと、女神ソイゼリアさんでしたかね」

「イステリアです。女神を格安イタリアンみたいな間違え方しないでください」

「すいません。で、何に選ばれたって?」

「はい! 残念ながら貴方は不幸にも死んでしまいました! 本来であれば魂だけが天国か地獄に送られるんですけれども、貴方の現世で輝かしい活躍をされたのでこうしてお呼びしたのです!」

「屈託のない笑みで言われると、なんか傷つきますね」

「ごめんなさい! 私ったら、期待だけ先走らせちゃって」


 あわあわと恥ずかしそうに照れる女神様。明らかに残念そうじゃない笑みだったのでつい突っ込みが出てしまった。 死ぬ前の記憶を整理してみるが、輝かしい活躍なんて微塵もない。


 学校へも行かず、一日中パソコンに向かって伸びない小説を書いていただけの男に、活躍なんて言葉は掛け離れてるだろう。


「女神様、恐らく人違いであるかと存じますがー」

「いいえ貴方です」


 なら酔狂だ。女神の言葉がだんだん皮肉に聞こえてくる。


「なんでって顔してますね」

「そりゃ勿論。ずっと引きこもって小説書いてただけの男ですよ?」

「その小説を書いていたって言うのが重要なんです! それこそ貴方が適任」


 女神様は悪戯っぽく言う。可愛い。


 小説を書いてたことが重要。つまりアレか、小説に出てくる能力が使えたり、あるいは主人公の能力が継承される奴か。


 話の流れが完全に変わって期待が胸を敲く。


「貴方が転生する世界『カクール』では現世で書いていた小説の評価や観覧数が能力値になるんです! 貴方にぴったりじゃないですか!」


 二人の間に沈黙が訪れる。


「どうしました? あまりに嬉しくて言葉がないんですか?」

「なおさら不遇な世界じゃねぇか! あれだぞ? 底辺って奴だぞ? 三桁は愚か、二桁も評価貰えないクソ雑魚だぞ?」

「お、落ち着いてください」

「転生したらソッコーでモンスターに食われる奴じゃんこれ! なんだ? 中途半端すぎてモンスターの餌くらいにしかならねぇってか!」


 怒りのあまり声を荒らげて女神に詰め寄ってしまう。


 やっぱりアレか。こんな優しそうな見た目してド畜生なのか?!


「女神様なら俺の素性、全部知ってるんだろ?」

「えぇ。貴方の全てを網羅しております」

「なら、泣かず飛ばずの作品をウェブで投稿していた俺は自ずと除外されるはずなんだが?」


 俗に言う底辺だ。書いていた小説をウェブ上に公開したが、総評価数は驚異の一桁、観覧数だって三桁届かないくらいなのだ。


 この女神、やっぱり畜生だ。睨むような視線で見るとため息をついて、つらつらと語り始める。


「私の言ったこと、きちんと理解されていないみたいですね」

「理解もクソもあるか。裸同然のステータスで異世界送りにするんだろ」

「私がいつ“ウェブ小説で”なんて言いましたか?」


 意味ありげな一言に拗ねていた女神に向き直る。


「つまり、それって」

「小説ならばどんな形態でも含まれるということです。作家なんだからそれくらい見通してくださいよ」


 苦言を呈されてしまった。


 だが、それもそれで嫌なんだがなと心で呟く。


「こうして話してる間にもカクールでは無辜の人々が魔王軍に殺されているんです。良いですか? 貴方がカクールに降り立てば間違いなく最強クラスに近いんです。だから、自信を持って」


 何の根拠があってと言いたくもなったが全て知られてるんであれば、もはや拒否する術を持たない。

 何も返せず頷いた。


「では行ってらっしゃいませ。能力の詳細は転生した後に『パラメーター』と唱えれば見れますので」

「最後に解説どうも」


 このときは仕方ねぇ世界救ってやるかとも思った。


 女神の巧みな言葉に乗せられていることも知らずに・・・・・・。


 こうして『龍坂 カナメ』は異世界へ転生したのだった。


 

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