青い目の少女

@tamaazusa

第1話

 小さな町にひっそりとたたずむおもちゃ屋があった。

 壁にはツタが伸び、庭は手入れされず雑草が生い茂っていた。

 店の片隅に、一体のアンティークの人形が埃をかぶって飾られていた。

 青い目で、美しいドレスを着たその人形は、かつて裕福な家族の娘のために特別に作られたものだった。

 その娘は病弱で、外で遊ぶことができなかった。

 アイリスと名付けたその人形と遊ぶことが何よりの楽しみだった。

 人形の方も、いつも悲しい表情をしている彼女が笑うのを見ることがうれしかった。


 娘は読書が好きだった。

「大きくなったらお姫様になりたいな」と娘は人形に語った。

 家から出ることのない娘は、本で読んだ世界を夢見ていた。

 何度も本の話をし、いつも最後にはぎゅっと人形を抱きしめた。

 ただ、その幸せは長く続かなかった。


 青い目の人形が娘の家に来てちょうど一年たった時、娘の病気が急に悪化した。

 いかないで。おいていかないで。

 人形は何度も声にならない声で叫んだ。

 しかし間もなくして、娘はこの世を去った。

 家族は悲しみに暮れた。

 人形を見ると、いつも娘のことを思い出してしまった。

 そのつらさに耐えきれず、知り合いのおもちゃ屋へ人形を売った。

 独りになった人形は、そのおもちゃ屋でずっと飾られ続けた。


 誰にも買われることのないままひっそりと棚に並べられていたある日、小さな女の子が母親と共に店にやってきた。

 人形を見つけた女の子は、その美しい青い目と古びたドレスに心を奪われた。

 女の子はその人形が高貴なものと知りながらも、「このお人形がどうしても欲しいの」と母親にねだった。

 大事にするのよと母親は女の子に言い、人形はついに新しい持ち主の手に渡った。


 女の子は人形にアイリスと名付け、大切に抱きしめて毎日を過ごした。

 しかし彼女もまた、重い病気を抱えていた。

 体調がいいときは外に出ることもあるが、普段は部屋から出ず、本を読んだり人形遊びをしていた。

 人形はその様子に、自分がかつて遊んでいた娘の姿を重ね合わせた。

 同じ名前を付けられたのも、偶然とは思えなかった。


 女の子はよく、今朝見た夢を人形に話した。

「夢の中では私はお姫様にもなれるの」と女の子は語った。


 ある日、女の子が急に熱を出して寝込んだ。

 医者が彼女を診たが、ゆっくりと首を振った。

 また、一人になるの。

 人形は女の子に抱かれたまま、悲しくなった。


 その日の夜、女の子が寝ていると不意にその口が動いた。

「アイリス。私、いまお姫様になってるよ」

 そう話す娘は人形がいままで見たことのないほど幸せそうな顔をしていた。

「アイリスも一緒に来る?」

 目は閉じたまま、女の子の口はなおも言葉を紡いだ。

 人形は答えた。

「うん。一緒に行く」


 次の朝女の子の母親が部屋に入ると、ベッドの上には冷たくなった娘が静かに横たわっていた。

 その顔はとても幸せそうだった。

 胸の中にはしっかりと青い目の人形が抱きしめられていた。

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