釣り
「よう、釣り竿が出来たぞ」
朝、まだ八重が朝餉を摂っている時に、
「ンだよまだ食ってんのか。ほら、急げ急げ。釣りに行くぞ。食ってる間に
そう言い残し、八重の返事も待たずに
急いで膳を下げようとする八重に、家守は「こちらでやろう。
「おお、早エじゃねえか」
〈とりのかみさま、せっかち!〉
ナズナの可愛らしい声が早朝の澄んだ空気に響く。八重は何度も田んぼの方と
足早に進む
「ほら、巫女殿の釣り竿だ」
「あっありがとうございます!」
差し出された竿を受け取って、八重は兎にも角にも頭を下げた。
「ちょい投げでキスやベラ狙ってもいいけどよォ、せっかく釣ンのに、船でも浮かべれりゃ良かったんだが…………そうだ、
船と釣りと
「おおい、
「何ぞあったかの」
すぐさま浜辺の海水が盛り上がり、
「おう。巫女殿が初めて釣りすンだけどよ、どうせなら沖合いに連れてってやりてェだろ。ちょっと背中に乗せてくれや」
「はっはっは、我を船の代わりにすると申すか」
(とんでもない……! とんっとんでもない……!!)
踏んで、尻に敷くのかと、八重はあまりの畏れ多さに顔色を蒼白にしてぶんぶんと頭を振る。
「よかろ、暫し待つが良い」
少し離れた処にいるからの、と言い残し、
「よろしいのでしょうか! よっよろしいのでしょうか!!」
白銀の龍は浜辺に身を伏せ、「さあ、乗ると良い」とおおらかに誘いかける。ナズナは〈わあい!〉と無邪気に喜んで、
「
「ひえ、ひええ」
「そんな座り方じゃあ雲海に投げ出されッちまうぞ、オラ、足伸ばせ」
ぐんぐんと潮風をうけて、
空は抜けるように青く、波は光を受けて煌めいている。濃い潮の香りを運ぶ風が心地良い。波飛沫が伸ばした足先にかかって、八重は冷たさにひゃあと声を上げた。「ここが良かろう」と、
「さて、釣るぞ」
「どれ、魚があまた釣れるよう竿に加護をかけてしんぜようか」
「止めとけ止めとけェ。変なモンがかかって巫女殿が雲海に落っこちたらどうすンだよ」
〈おさかなたのしみねえ、ねえ!〉
青空の下、
「あんま気負いなさンな」
振り向く八重に、
「張り詰めたまんまだと疲れッちまうぞ。手を尽くしたら休むのも備えのうちだ」
思えば、あまりにも自然に皆に送り出された。八重は胸いっぱいに潮風を吸い込んで、「はい!」と大きく返事をした。
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