第22話 美咲の限界

 日が経つにつれて、美咲の苛立ちはますます強まっていった。彼女は、自分の気持ちを抑え込もうとするたびに、綾音が悠真にますます接近していくのを見て、胸の中で焦りと嫉妬が積もっていった。そんなある日、美咲はついにその感情を抑えきれなくなり、思わず悠真に声をかけた。


「ねえ、日向君。ちょっといい? 最近、橘とばっかり話してるじゃない。私とも少しは話す時間作ってくれてもいいんじゃないの?」


 彼女の言葉には、いつものツンデレな態度が見え隠れしていたが、その裏には明らかな焦りが感じられた。悠真はその言葉に少し戸惑いながらも、美咲の不器用な感情に気づき、どう対応すべきかを悩んでいた。


「霧崎……別に、話したいことがあればいつでも話せばいいんじゃないか? 」


 悠真の言葉に、美咲は少しだけ安堵したように見えたが、彼女はそれを表に出すことはなかった。彼女の心の中で、ようやく自分の気持ちを少しずつ伝えられるようになってきたが、まだ完全に素直になることができない自分に対する葛藤は続いていた。 


 悠真の優しい言葉に、美咲は一瞬だけ心が軽くなったように感じたが、それはほんの束の間だった。悠真が自分との時間を楽しんでいると言ってくれたことは嬉しかった。しかし、彼女の心の中にはまだ解消されないもやもやが残っていた。綾音と悠真が親しくなるにつれて、彼女の存在がますます大きくなっていくのを、美咲は強く感じていた。


「そう……でも、なんか最近は橘と一緒に居る時間が長くない?別に気にしてるわけじゃないけど……」


 美咲は口を開きながら、またしても素直になれない自分に苛立ちを覚えた。悠真に対する気持ちを伝えたい――その思いはあるのに、彼の前に立つとついツンとした態度を取ってしまう。悠真が優しくしてくれるたびに、その優しさを感じながらも、自分の弱さや素直になれない自分が嫌でたまらなくなる。


 「橘ばかり……」と言いながらも、美咲は自分の焦りがすべて綾音との比較から生じていることを感じていた。綾音は素直で、可愛くて、悠真に気持ちをはっきり伝えている。それに比べて自分はどうだろうか? 悠真に好きだと言いたいのに、それを認めることさえできずにいる。


「……別にいいのよ。あんたが誰と話してようと」


 美咲は最後にそう言って、いつもと同じ強がりを見せた。しかし、彼女の目は少し潤んでおり、その言葉の裏にある本音を隠しきれていなかった。悠真は美咲のその姿に気づき、彼女が抱えている感情を感じ取っていたが、彼自身もどうすればいいのか分からなかった。


「霧崎……」


 悠真は優しく彼女の名前を呼んだが、その言葉以上に何を言うべきかが浮かばなかった。彼は、綾音と美咲の間で板挟みになっていることを感じていた。美咲のツンデレな態度に隠された本音が分かりながらも、それをどう引き出すべきかが分からなかったのだ。

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