第21話 美咲の嫉妬と葛藤

 先ほどの出来事を引きずりながら、美咲は一人で廊下を歩いていた。周りのクラスメイトたちは楽しそうにおしゃべりをしているが、彼女の心の中はモヤモヤとした感情でいっぱいだった。綾音が悠真と親しくするたびに、彼女の中で膨れ上がる嫉妬と焦燥感が、何もできない自分への苛立ちに変わっていた。


「なんで……なんで私はあんな風に素直にできないの?」


 美咲は心の中で何度も自分に問いかけた。彼女も悠真に対して特別な感情を抱いているのに、それを表に出すことができない。素直になれない自分が憎らしく、同時にそんな自分を見せつけるたびに、悠真との距離がさらに遠ざかっていくように感じていた。


「橘は……素直だし、優しいし……でも、私はどうして……」


 美咲は心の中で悶々と悩み続けた。綾音が悠真に積極的に接している姿を見ていると、ますます自分が何もできていないことに気づかされ、胸が痛んだ。自分の気持ちを伝えたいと思う反面、ツンデレな自分のプライドや恥ずかしさが邪魔をして、素直になれない。彼女の心は、葛藤と嫉妬の渦に巻き込まれていた。


 その時、美咲はふと窓の外を見て、いつの間にか校庭を歩く悠真と綾音の姿を見つけた。二人は楽しそうに話しながら歩いており、その様子はまるで仲の良いカップルのように見えた。美咲の胸の中で、さらに嫉妬が燃え上がる。


「まだ……橘と一緒にいる」


 彼女は拳をぎゅっと握りしめ、視線をそらした。その瞬間、彼女は自分の無力さと、綾音に対する嫉妬が限界に達していることを痛感した。何もできずにいる自分が、どうしようもなく情けなく思えた。


 美咲は自分が情けなくて仕方がなかった。綾音が悠真と自然に話し、笑い合う姿を見ていると、自分がどれだけ無力なのかが嫌でも分かってしまう。綾音は悠真に対して素直に接しており、彼との関係をどんどん深めていっている。彼女にはそんなに時間はかからなかった。それに比べて、自分はどうだろうか。


「どうして、私はこうなんだろう……」


 美咲は何度も同じ問いを自分に投げかけた。悠真に対して特別な感情を抱いていることは明白なのに、それを伝えることができない。ツンツンした態度を取るたびに、心の中では「違う」と叫びながら、実際にはその真逆の行動をしてしまう。彼に素直になりたいという気持ちがあるのに、プライドや恥ずかしさが邪魔をしてしまう。


「綾音みたいに素直になれたら……」


 綾音と自分を比べるたびに、美咲は苦しさを感じた。綾音は明るくて優しく、誰にでも愛される性格を持っている。それに、何よりも悠真に対して素直な気持ちを伝えることができる。それがどれほど羨ましいか、美咲には痛いほど分かっていた。


「私は……」


 美咲は拳を握りしめたまま、じっと窓の外を見つめた。悠真と綾音の姿はどんどん遠ざかっていき、彼らの楽しげな顔は既に見えなくなった。それでも、美咲の胸の中では焦燥感と嫉妬が燃え続けていた。自分が何もできずにいる間に、二人はますます親密になっていく。それを見ているだけで、心が締め付けられるような痛みを感じた。


「このままじゃ、私は……」


 美咲は自分自身に失望していた。このままでは綾音に悠真を取られてしまう。それは美咲にとって最も避けたい未来だった。しかし、どうすればいいのかが分からない。今までツンツンした態度でしか接してこなかった自分が、突然素直になって悠真に気持ちを伝えるなんて、想像するだけで恥ずかしさが込み上げてくる。

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