第20話 2人間の緊張感
綾音が悠真に対してより積極的になっていることは、クラス全体でも話題になっていた。彼女は悠真との距離を急速に縮め、放課後に一緒に帰ることや、図書館での勉強会など、二人の時間を増やしていた。その様子は、周りの目にも明らかだったが、特に美咲の目には強烈に映っていた。
「また話してる……」
美咲は、ふとした瞬間に教室の隅で綾音が悠真と楽しそうに会話している姿を見ると、胸の中でモヤモヤとした感情が膨れ上がっていた。彼女自身、悠真に対して特別な感情を抱いていることを自覚していたが、その気持ちを素直に伝えることができなかった。ツンデレな性格が災いし、彼女はいつも悠真に対して素直になれないままだった。
昼休み、教室の端で悠真と綾音が話しているのを見た美咲は、思わず二人に割り込むように近づいた。
「また、あんたたち二人で話してるの? そんなに楽しいわけ?」
美咲の言葉には、どこか嫉妬の色が含まれていた。彼女はいつものようにツンとした態度を取りながらも、内心では二人がどんどん親しくなっていくことに焦りを感じていた。綾音もその緊張感を感じ取っており、笑顔で返事をしながらも、どこか牽制するような視線を美咲に向けた。
「美咲ちゃん、どうしたの? 特に何かあるわけじゃないし、気にしないで」
綾音は、相変わらず柔らかな笑顔を浮かべながら美咲に答えた。表面上は何も問題ないかのように見せつつ、彼女の視線にはどこか余裕があり、そこに微かに感じ取れる牽制の色が美咲の神経を逆撫でしていた。綾音が悠真に対してますます親しげになっていく様子を目の当たりにするたび、美咲は内心の苛立ちと焦りを抑えることができなかった。
「ふん、そう。別に私には関係ないし、あんたたちが話してようがどうでもいいけど……」
美咲はそう言い放ち、わざとそっぽを向いてみせた。だが、彼女のその態度は、いつも以上に冷たく、心の中に抱える嫉妬心を隠しきれていなかった。綾音もそれに気づいているようで、笑顔のまま、さらに言葉を続けた。
「そうなんだ。でも、日向君とは最近いろいろ話すことが多くて。例えば、次のテストのこととか、一緒に勉強してるんだ。美咲ちゃんも一緒にどう? 三人で勉強するのもいいと思うよ」
綾音の言葉には、明らかに美咲を挑発するようなニュアンスが含まれていた。悠真との時間を独占しているような自信が、彼女の言動に表れていた。美咲はその挑発を感じ取りながらも、焦りと苛立ちで、ますます態度を硬化させた。
「……別にいいわよ。勉強くらい一人でできるし、あんたたち二人で好きにやってれば?」
美咲は強がりながらも、内心では綾音に対する嫉妬と敗北感が込み上げていた。彼女が悠真との距離をどんどん縮めていく中で、自分は何もできずに立ち止まっているだけだという焦燥感。それが彼女の心をさらに追い詰めていた。
「霧崎さん何か用があるの? 私たち、ちょっと勉強の話をしてただけなんだけど」
綾音の言葉に、美咲は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに表情を強張らせて言い返した。
「べ、別に。勉強の話なら、私だってできるし……」
二人の間には明らかに微妙な緊張感が漂っていた。悠真はその場で困惑しつつも、どちらにも気を遣わなければならない状況に追い込まれていた。美咲は嫉妬心を隠し切れず、綾音の存在がますます気になっている一方、綾音は美咲のツンデレな態度を軽受け流しながら、悠真との関係を進展させようとしていた。
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