第18話 美咲の不機嫌

 ある昼休みのこと。悠真は教室で綾音と軽い雑談をしていた。綾音は優しい性格で、学校内では誰からも好かれている存在だ。彼女は、以前の学園祭の後から悠真に対して親しげに接してくれるようになり、時折二人で話す機会が増えていた。


「日向君、今日の放課後、一緒に図書館に行かない? 次のテストに向けて、ちょっと勉強したいんだけど……」


 綾音が楽しそうに話しかけてきたその時、不意に霧島美咲が教室のドアを開けて入ってきた。美咲は二人の様子を見て、一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに何事もなかったかのように顔をそらした。


「……何よ、こんなところで何話してんの?」


 その言葉には、普段の美咲のツンデレな態度以上のものが感じられた。彼女の声は少し硬く、冷たい。悠真はその微妙な変化に気づいたが、どう対処すればいいのか分からなかった。


「別に、大した話じゃないよ。綾音とテスト勉強の話をしてただけさ」


 悠真がそう答えると、美咲はさらに不機嫌そうな顔をしてそっぽを向いた。


「ふん、あんたなんかと勉強する必要なんてないし……まあ、勝手にすれば?」


 彼女の言葉はいつものツンデレそのものだったが、なぜかその態度がいつもより尖っているように感じられた。悠真はそのことに違和感を覚えたが、美咲が不機嫌な理由がすぐには分からなかった。


「なんだか機嫌が悪いみたい」


 綾音が困ったような笑顔を浮かべて、美咲の背中を見送った。その視線には、わずかながらに嫉妬の色が含まれているのを悠真は見逃さなかった。


 その後も、美咲の態度は微妙に変化していった。特に、悠真が綾音と話している時には、彼女の不機嫌さが目立つようになった。例えば、放課後の廊下で綾音と悠真が一緒に歩いていると、偶然を装って美咲が近づいてきた。


「何よ、あんたたち、また一緒にいるの? 毎回毎回、飽きもせずに」


 美咲はそう言いながらも、明らかに彼らに割って入るような動きを見せた。悠真が何も返事をしないと、美咲はさらに口調を荒げた。


「別に、あんたが誰と話してようと関係ないけど、そんなにべったりくっついてるとバカみたいに見えるわよ」


 その言葉に、綾音は少し顔を赤らめながらも、慌てて美咲に弁解した。


「そ、そうかな……? 私たち、そんなつもりはないんだけど」


「そういうことよ。勘違いしないでよね」


 美咲の態度はどこか刺々しく、悠真にはその裏に隠された感情が何なのかがはっきりと伝わってきた。彼女は綾音に対して、明らかに軽い嫉妬心を抱いている。それは悠真との関係において、無意識のうちに感じてしまうものだった。


 しかし、彼女自身がその感情を認めたくないのだろう。だからこそ、美咲はわざとそっけない態度を取り続けていた。ツンデレな性格が彼女の本音を隠す壁となり、素直に感情を表現することを拒んでいた。

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