第17話 新たな絆の芽生え

 霧島美咲との間で再び事件が起こり、悠真はまた彼女を助けた。これによって、二人の間には新たな絆が確かに芽生え始めていた。美咲は今まで、どの男子にも心を開かず、特に男子には常にツンデレでそっけない態度を取り続けていた。だが、悠真だけは他の男子とは違っていた。彼は美咲に対して過剰な期待もせず、彼女を特別扱いするわけでもなかった。その自然体な態度が、美咲にとって新鮮であり、彼女の心に少しずつ変化をもたらしていた。


 美咲は自分でも気づかぬうちに、悠真を頼りにしていることを認め始めていた。彼が何度も危険から助け出してくれる姿に、彼女は少しずつ信頼を寄せるようになり、彼といると安心感を感じることが増えていた。しかし、それを素直に言葉にするのは、彼女にとって難しいことだった。ツンデレな性格が邪魔をして、ついそっけない言葉を選んでしまう。


「……本当に、あんたは変わってるよね」


 美咲はある日、悠真にぽつりとそう言った。二人で帰り道を歩いている時、ふと自然に出てきた言葉だった。悠真はその言葉に特に驚くこともなく、いつも通りの落ち着いた表情で彼女を見つめ返した。


「変わってるか? 俺はただ、普通にしてるだけだよ」


 悠真の返答に、美咲は少し戸惑った表情を浮かべた。普通――彼にとってはそれが当たり前かもしれないが、美咲にとって悠真の行動や言動は、他の男子とは一線を画すものだった。普通とは思えないほど、彼は自然体で、自分を飾らない。


美咲はそんな悠真の姿に、次第に安心感を覚えるようになっていた。彼がいると、心が落ち着く。無理をして強がる必要がなく、自分らしくいられる――そう感じるようになっていた。


「……まあ、あんたが普通だって言うなら、そうなんだろうけど」


 美咲はそう言いながら、内心ではもっと彼と話したい、もっと彼のことを知りたいという気持ちが膨らんでいた。だが、ツンデレな性格からか、彼女はそれを表に出すことができなかった。


 悠真もまた、美咲が少しずつ自分に心を開いていることを感じ取っていた。彼女のツンデレな態度の裏に隠された感情が、少しずつ透けて見えるようになっていた。美咲が自分を信頼してくれるようになり、彼女との距離が縮まっていくのを感じるたびに、悠真は嬉しさを覚えた。


 その一方で、悠真自身もまた、美咲との関係が特別なものになりつつあることに気づいていた。彼女の不器用でありながらも誠実な姿勢に惹かれている自分がいることを認め始めていたのだ。彼女のツンデレな態度も、次第に彼にとっては可愛らしく感じられるようになり、自然と美咲との会話を楽しむようになっていた。


 だが、二人の間に芽生えた絆は、時折不安定なものでもあった。美咲は悠真に対して心を開きつつある一方で、まだ自分の本当の気持ちを素直に表現することができずにいた。それが、時折彼女の心の中に生じる葛藤を引き起こしていた。


 例えば、悠真が他の女子――特に綾音と親しげに話している姿を見ると、彼女の胸には不思議なモヤモヤした感情が芽生えた。自分でもその感情が「嫉妬」であることを薄々感じてはいたが、それを認めたくなかった。


「……別に、悠真が誰と話してても関係ないし」


 そう自分に言い聞かせるたびに、そのモヤモヤが一層強くなる。彼が他の女子に笑顔を向けているのを見ると、なぜか不機嫌になってしまうのだ。その気持ちが芽生えた時、美咲はいつもそっけない態度を取ることで自分の感情を隠そうとしていた。


 だが、心の奥では、悠真が自分にとって特別な存在になりつつあることを、美咲は強く感じていた。それを素直に認める日が来るのかどうかは分からなかったが、少なくとも彼女の中で彼に対する好意は確実に育まれていっていた。


 美咲と悠真の関係は、まだ完全に確立されたものではないが、確かな絆が芽生え始めていた。ツンデレな美咲が、少しずつ自分の気持ちに向き合いながら、悠真との距離を縮めていく過程は、これからさらに新たな展開を迎えそうだった。

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