第11話 気づき始めた変化

 ある日、悠真は教室で一人静かに席についていた。いつも通り、誰からも話しかけられず、ただ時間が過ぎるのを待っていた。だが、その日、初めて違和感を覚えた。今まで誰も彼に興味を示すことはなかったはずだが、いくつかの視線が自分に向けられていることに気づいたのだ。気のせいかと思っていたが、数日が過ぎると、さらにその視線は明確なものになってきた。


「日向くんって、なんだか最近雰囲気変わったよね」


「そうだね。前はあんまり目立たない感じだったけど、今はなんか堂々としてる気がする」


 クラスメイトたちが、悠真について話している声が耳に入った。かつての悠真は、教室の隅で誰にも相手にされず、ただひたすら自分の存在を隠すようにしていた。しかし、三浦の失墜後、彼は自分の力と存在感に自信を持つようになり、その変化が周囲にも伝わり始めていた。


 クラスメイトの中には、悠真に話しかける者も現れた。特に、三浦が失った人気の一部が悠真に流れ込むかのように、彼に対して興味を持つ女子が増えていた。ある日の昼休み、悠真がいつものように一人で過ごしていると、クラスメイトの一人が話しかけてきた。


「日向くん、最近どうしたの? なんか、いつもと違う感じがするよ」


 その言葉に、悠真は一瞬驚いたが、すぐに軽く微笑んで返事をした。


「そうかな? 別に何も変わってないと思うけど……」


 それでも、確実に周囲の態度が変わってきていることを彼は感じていた。クラスメイトたちが、今までのように彼を無視するのではなく、興味を持ち始めているのだ。自分が変わったことが、少しずつ影響を与え始めている。悠真は、胸の中で小さな満足感を覚えた。


 ある日の放課後、悠真が教室で一人静かに過ごしていると、橘綾音が近づいてきた。


「日向くん、ちょっといい?」


 彼女の声に、悠真は一瞬驚いたが、落ち着いた様子で彼女の方を向いた。綾音は少し照れくさそうに微笑みながら、彼の前に立った。


「最近、日向くんって変わったよね。前はあまり目立たなかったけど、なんかすごく自信がある感じがするんだ」


 その言葉に、悠真は内心では動揺しながらも、冷静を保って返事をした。


「そんなことないよ。ただ、少し色々考えることがあってさ」


 彼の返答に、綾音はさらに興味を示すように、彼の顔をじっと見つめた。


「そっか……でも、私は今の悠真くん、すごくいいと思うよ。これからもっと話す機会があったら嬉しいな」


 彼女の言葉には、以前のようなただのクラスメイトとしての軽い関心以上のものが含まれていた。悠真はその変化に気づきながらも、彼女の気持ちを慎重に受け入れるように返事をした。


「そうだな、これからよろしく」


 橘綾音のようなクラスの人気者が自分に話しかけ、しかも親しげに接してくる――かつての悠真なら夢のような状況だ。しかし今、悠真はその変化を自然に受け入れることができる自分がいることに気づいた。自分に力があり、それを使って周囲が変わり始めているという確信が、彼に余裕を与えていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る