第2話~鏡の中の日常~
鏡の中の私が夢なのか…
それとも…鏡に映る私が夢なのか…
それは…胡蝶の夢…
◆◆◆◆◆◆◆◆
「やっぱし、カルビは山葵醤油が一番だよ」
カウンターに並び座るアリスが、美味しそうに料理を頬張っている。
…やっぱし、素焼きの肉より美味しいよね。
「アリスちゃん。御代り食べる?」
カウンターの中からアリスに呼びかける、たっちゃんだった。
割烹着姿は変わらないが、様相は私が見慣れた柔らかい印象の中年男性ではなく…例えるなら赤鬼が一番近い。
…普段は温和な、たっちゃん。だが、酒乱でトラブルメーカーなのも界隈では有名だ。
たっちゃんの心の中の姿は<酒呑童子>らしい。平安の時代に酒が大好きで、酔いに任せてやりたい放題をした盗賊の頭。
その鬼畜さから赤鬼の姿で描かれることも多い…
何回注意をされても、治らない酒癖。酒で気が大きくなると…そんな本性が姿になっている。
「次はロースが食べたいよ」
たっちゃんにアリスが注文をしている。
「野菜や魚もバランスよく食べなさい」
私の注意に困った顔になるアリスだ。
「鏡華はワンコにバランスの良い食事を求めるのか?」
…都合の良い時だけ、ワンコ枠に戻るんじゃないよ。
「他の味も覚えると、楽しいと思うんだけどね」
私の注意は何処吹く風なアリスだ。
「あと、あと。牛タンシチューね!」
壁のホワイトボードに書かれた<本日のおすすめ>を見付けて、してやったり顔のアリスだ。
「シチューなら野菜が入ってるからね」
…それで、いいのか?
私は深く考えることを止め、刺身の盛り合わせをアテに日本酒を楽しむことに専念する。
…アリスが美味しそうに食べてくれれば…それだけで、私は幸せだよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
昨晩にしたアリスとの約束で、休店日の今日は一緒に鏡の中の世界に来ている。
過去でなく、平行時間の鏡の中への転移であれば私は寿命を消費せずに移動出来る。
マンションで<合わせ鏡>を抜け、鏡の中に来た私とアリスは、現世で私の所属する店があるビルの地下に向かった。
現世では、勤務後にテイクアウトで毎晩晩御飯をお願いしているT’sキッチンが目的地だ。
店では、たっちゃんの鏡中体がまっていた。
鏡中体…それは、現世と鏡の中で対になる人の姿。
鏡の中の世界が存在する理由を私は知らない。
そして、なぜ私が両方の世界を行き来出来るのかも私はわからない。
ただ、現世の人が死を迎えれば鏡中体も死を迎える。逆に鏡中体の死は現世の死に繋がる。
その因果を使い、合わせ鏡で過去の鏡の中の世界に戻り、過去を書き換える依頼を遂行して寿命を得る事で生き永らえている私だった。誰に聞く事も出来ない、聞いたとしても答えは得られない謎。
人以外の鏡中体が存在しない理由。そして、私の鏡中体が存在しない理由を…
「鏡華さん。御代りどうします?」
たっちゃんが空になった私のグラスに気が付いた。
横ではアリスが満面の笑みでシチューを頬張っていた。
「アリス。一口ちょうだい」
「はい!あーん!」
シチューを楽しんでいたスプーンを、アリスが私の口元に運んでくれた。
…デミグラスソースだと赤ワインかな。
「二人はいつでもラブラブだね」
たっちゃんが茶化して来たが、気にならない私だ。
不思議だが鏡の中では恥ずかしいと感じず、素直にアリスと刻を楽しめる私なのだ。
「赤ワインと、私も牛タンシチューで。バケットもお願い出来るかな」
「はいよー」
赤ワインのグラスを私の前に置くと、たっちゃんは牛タンシチューの準備をはじめた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「おいしかったぁ~」
満面の笑みのアリスと店を出ると、エレベーターに乗り六階へ向かう。
エレベータの扉が閉まると、アリスは私に抱き着き唇を重ねて来た。
柔らかな心地よい感触を感じた私の唇を割り、滑らかなアリスの舌が私の咥内に入ってきた。
薄く滑らかなアリスの舌は、人の舌では考えられない動きで私の舌を絡め、時には上顎を舐め回し快感を私に与える。
…あっ…膝が…
咥内という狭い空間で生まれた快感が私の全身を巡り、膝が抜けるのを私は感じた。
アリスは私を抱き締める力を強め、私が床に崩れるのを防いでくれている。
…このまま…アリスに身を任せたい。
私の欲求に対して、アリスはゆっくりと唇を離す。
「デザートも美味しかったよ」
私の耳元でアリスが呟くと同時に、エレベータの扉が開いた。
火照りの残る身体に気合を入れ、平常を装いエレベータから降りた私だった。
店内は現世の店と違い、大音量の激しいリズムの音楽が流れ、薄暗い店内に七色のムービングライトの光が入り乱れていた。
ボックス席などはなく広いダンスフロアになっており、中央にはお立ち台、壁際には数人で囲める立ち飲みテーブルが色々な場所に配置されている。
お立ち台では露出の激しい服装をした若い女性姿と、異形の姿ではあるが…どこか愛らしい女性を連想させる姿の者が音楽に合わせて激しく踊っている。
ダンスフロアでは人の姿をした男女、異形の姿をした者が入り乱れている。
「じゃあ、踊ってるね」
店内に入るとアリスは私から離れ、ダンスフロアの人混みに向かう。
…まるで昭和のディスコだな。
私はエントランス横のバックルームに入り、一番奥の扉をノックする。
<コンコン>
「どうぞ」
落ち着いた女性の声が聞こえる。
扉を開けると、執務机に黒のミニスカートスーツに身を包んだ、黒髪肩長ボブの少し冷たい印象の美女が座っていた。
…この人は現世も鏡体もかわらないな。
「鏡華か。アリスとデートか?」
「ああ。向こうは休店日だからな」
女は現世の<この部屋>には無いサイドボード上に置かれた酒瓶から、ロックグラスに琥珀色の液体を注ぎ私に手渡す。
自分のグラスの準備を終えた女はグラスを軽く掲げる。私も合わせてグラスを軽く掲げると一口飲んだ。
心地よいフルーティーな香りが私の鼻腔を抜ける。
鏡の中の酒の銘柄はわからないが、かなり高価なブランデーには間違いないはずだ。
「それで、何かわかったか?」
「なんにも…」
女の問いに答えながら私は想いを巡らす。
私に鏡中体がいない理由。なぜ私は鏡の中の世界と行き来出来るのか。人以外が存在しない鏡の中にアリスは存在出来るのか…
多くの謎の答えを求め、私は現世と鏡の中を行き来しているが…未だ…なにもわからない。
「依頼を受け続ける限り、鏡華の刻は永遠だ」
「ああ」
「依頼が絶える事はない。<命>を集め刻を繋ぎ、生き延びていれば…急がずともいずれわかるだろう」
「そうだな。私の魂が疲れ擦り切れるまでに見つかることを祈っている」
グラスの酒を飲み干し、女に背を向け部屋を出ようとする私に女の声が届く。
「向こうの私に、よろしくと伝えておいてくれ」
軽く手を上げた私は、部屋を出るとダンスフロアに戻る。
人が居なかった立ち飲みテーブルに陣取り、お立ち台を見るとアリスが音楽に合わせて激しく踊っている。
…尻尾を振り振りで、ご機嫌だね。
踊るアリスを眺めていると、ビールの商品名が全体にプリントされた露出激しいハイレグ水着を身に纏ったプロポーションの良い女がやってきた。
…完全に昭和で刻が止まってるよな。
「あら。鏡華さん!お久しぶりですね」
女の声に聞き覚えがある。店で一緒にキャストしている文香だ。
鏡中体のない私は鏡の中では店に勤務をしていないので、鏡体の文香は私を客として以上の事は知らない。
「ああ。テネシーウイスキーをストレートで二杯頼む」
「はい。アリスちゃんのもですね」
文香が酒の準備にテーブルを離れたので、お立ち台のアリスを探す。
アリスも私を探していたのか、視線が合うと笑顔になり私に手招きをする。
私は両手の人差し指を立て、顔の前でクロスさせ<×>と伝える。
「お待たせしました~」
琥珀色の液体に満たされた二杯のロックグラスを、文香がテーブルに置いていった。
一つを手に取り私が軽く口に含むと、焼いたオーク材の心地よい香りと、焼ける様な感覚が咥内に広がる。
「もうぉ。鏡華は連れないよ~」
テーブルに来たアリスが嘆く。
…もう…私が超弩級のリズム音痴と知ってるのに、今さら嘆かないでよ。
テーブルのグラスを手にしたアリスは、私のグラスと軽く合わせると一息で飲み干した。
「現世でも鏡華と飲みたいのに、向こうだと一舐めで気持ち悪くなっちゃうよ」
犬にはアルコールの分解能力がないので、わずかなアルコールでも悪酔い状態になるのは仕方のないことだ。
私の目を盗んで、晩酌をする私のグラスを一舐めしたホワイトシェパード姿のアリスだったが、数分後には千鳥足でゼーハーゼーハーと激しい息になり、丸り寝てしまった。
何が起きたかと動揺した私だったが、アリスの口元から漂うウイスキーの匂いに全てを理解した。
本当は大激怒をしなければならない状況だが、私と晩酌を一緒にした想いで舐めてしまったアリスが愛おしくてしかたなかった。
息の荒いアリスに寄り添い、リビングの床で一緒に寝た懐かしい記憶だった。
そんな記憶を思い出していたら、隣にいるアリスが愛おしく我慢出来ずに抱き締めていた私だ。
「本当に鏡華は甘えん坊だね」
私の耳元でアリスは囁くと、ゆっくりと唇を重ねてきた。
アリスの舌が私の唇を割り咥内に入って来た。
エレベータでの再来だ。再び膝が砕けそうになる私を、アリスが抱きしめ支えてくれた。
周りの視線は気にならない。鏡の中では皆が己の欲望に正直で、周りも多くのカップルがキスをしている。数は少ないが物陰で性行為に及んでいる者すらいるが…誰も気にはしていない。これが…鏡の中の世界なのだ。
「お楽しみ中に野暮で申し訳ない」
低くドスの効いた声で呼びかけられた私だった。
アリスの顔が離れた私は、声のした方向を確認する。
恰幅の良い黒スーツの中年男が私の横に立っていた。
「近藤さん」
近藤は、反社組織のフロント企業で社長をやっている。現世と瓜二つの姿で、恰幅が良く迫力ある体格に対して、軽く笑い裏社会を感じさせない優し笑顔だが、眼鏡の奥の目は笑っていない。
鏡の中でも現世と変わらぬ姿は、己の欲望に正直に生きている証なのかもしれない。
「頼まれていた9パラだが、マンションに届けて置いたから」
「ありがとう」
「野暮で済まなかった」
軽く手を上げて近藤が去って行く。
「さて、私の弾薬補給も出来たみたいだし、アリスのナイフを買いに行こうね」
私を抱き締めるアリスの腰が揺れている。
…こんなに尻尾を振り振りしてくれると嬉しいよ。
「うん!街ブラデートしながら護身屋だね」
護身屋は表の顔は護身道具を扱う店だが、裏では違法な武器の販売も行っている。
私もグラスの残りを一息で煽ると、二人で店を出る。
◆◆◆◆◆◆◆◆
店から出ると、明けぬ夜が私達を待っていた。
だが、ネオンや看板の明りで通りは明るい。
…ここは現世と同じなんだよな。
違いは、行き交う人々に異形の者が混じり、看板の文字は全て鏡文字で読み難いことだけだ。
店を出て花道通りを区役所通りに向かい歩いて、区役所通りとの交差点にある<俺様寿司>の向かい雑居ビルに目的の店はある。
…まっすぐ向かえば数分だけど…少しお散歩もいいよね。
腕を組んで身を寄せるアリスと一緒にトー横方向に向かい歩き出す。
鏡の中だけアリスと私は恋人として一緒に過ごせる。
現世のホワイトシェパード姿のアリスも私を愛してくれているが、アリスの話だと、
「人の姿の時と変わらず鏡華を愛してるけど、複雑な考えが出来ないんだよ。好きとか、愛してるとか、寂しいとか…簡単な考えしか出来なくてね」
らしい。鏡の中で複雑な人と同じ思考を得てるから、犬の姿でも普通の犬より遥かに賢い。だが、物理的に犬の脳では鏡の中のように人と完全に同じ思考は難しいと私は考えている。
身を寄せるアリスの体に感じる振動は、尻尾を振り振りしてご機嫌の証だ。
私とアリスはトー横を抜け、西武新宿駅付近まで来た。
目的の店は人気店で十数人が並んでいた。私達も列に加わった。
「今日は何味にするの?」
「アリスは何がいいかな?」
…聞かなくてもアリスの好みは知っているけどね。
「一番甘いミルクティーに黒糖タピオカをダブルで!」
「うん。いいね!」
私達の番になったので、アリスの好みでLLサイズをオーダーした。
受け取ったタピオカティーをアリスと私は回し飲みをしながら街ブラを続ける。
「タピオカのツルンとした喉越しが気持ちいいよ」
盛大に尻尾を振り振りして、アリスはタピオカティーを堪能している。
靖国通りに出た私達は新宿三丁目方向に向かい、四季の道に入った。
タピオカティーを飲み終えた私達は、ゴールデン街の区役所側入り口にあるスタンディングバーに入った。
既に店内は満員なので、店前に設営された立ち飲みスペースで生ビールを楽しんでいる。
「最初は苦かったけど癖になる味だったよ」
アリスは口の周りを泡だらけにしてビールを楽しんでいた。
私はショートパンツの尻ポケットからシガレットケースを取り出した。
私がタバコを咥え火を着けると、アリスの顔が少し曇る。
「その臭いだけは苦手だよ」
「ごめんね」
「ううん。鏡華のためなら我慢出来るから気にしないで」
犬の敏感な嗅覚にはタバコの臭いは刺激が強すぎるらしい。
…ありがとうアリス。
アリスと出会う前は酒とタバコだけが私を癒してくれる相棒だったから、私は忘れる事が出来ないのだ。
数杯の生ビールを楽しんだ私達は、目的の店に向かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
店内に入ると、スタンガン、マスタードスプレー、特殊警棒と合法ギリギリの護身グッズが所狭しと展示されていた。
…鏡の中では警察組織なんてないから、合法も非合法もないけど。現世の影響が店内に出ているだけだ。
「おっ、鏡華さん。いらっしゃい」
店員の呼びかけにアリスが応える。
「大き目のサバイバルナイフが欲しいの」
「また、鏡華さんにダメにされたのかいアリスちゃん」
「火炎触媒にされて刃に焼きが入ちゃったの」
店員は私が魔法を使えることを知る数少ない人の一人だ。
「同じナイフの黒刃が入荷してるよ。少し待っててね」
店員がバックルームに行き、私が駄目にしたナイフと同じだが黒刃加工された物を持って来た。
ナイフを受け取ったアリスは指先を刃の上を滑らせたり、ナイフの状態を確認している。
「これ気に入ったよ」
「じゃあ、このナイフと、いつものスローイングナイフを五本貰えるかな」
「まいどー!」
ナイフを受け取ったアリスは嬉しそうに太腿のケースに収めている。
私も受け取ったスローイングナイフを、レッグホルスターに取り付けたスローイングナイフ用ケースに収めた。
充分な収穫のあったアリスの尻尾が盛大に振られている。
店を出た私はアリスに聞いた。
「部屋に帰る前にラーメンでも食べようか」
「煮干し!煮干し!」
…さっきは犬が魚を食べるのか?だったのに、煮干しは違うらしい。
私達はゴールデン街に戻り有名な<煮干しラーメン>の店に向かった。
いつもなら行列覚悟だが、幸いにも今日は並ぶ事なくテーブルに着くことが出来た。
店のメニューは<煮干しラーメン>だけだ。
私は並盛だが、アリスは大盛を注文した。
…うん。この、これでもかー!って煮干しの出汁が最高だ。
アリスは猫舌ならぬ犬舌で、湯気の登る丼から小皿に移して冷ましてから食べている。
麺を食べ終わる頃にはスープも冷めていたので、アリスはスープの一滴も残さずに飲み干した。
「おやつで貰う煮干しも美味しいけど、煮干しラーメンは最高だよ」
満面の笑みのアリスを見ていると、私の心が温かくなるのを感じる。
アリスが一緒にいてくれれば…この先の見えない旅でも私は耐えられる。
◆◆◆◆◆◆◆◆
食事を終えた私達は歌舞伎町二丁目にあるマンションに戻った。
明りのない暗いリビングにはスタンドミラーが二枚あるだけだ。
寝室に行くと、ダブルサイズのベッドとサイドテーブルだけがある。
サイドテーブルにはジャックダニエルのボトルとロックグラスが二つ。
ロックグラスに琥珀色の液体を満たすと、一つをアリスに手渡す。
我慢も限界なアリスはグラスを一息に飲み干す。
「鏡華…もう…我慢出来ないよ」
なんて甘い声を出すんだアリスは。
アリスの声に我慢が出来なくなった私も、グラスを一息で飲み干すと、ベッドへ仰向けに倒れ込む。
私にアリスが覆い被さり、唇を重ねてきた。
唇を割り私の咥内に入って来たアリスの舌が与える快感に私は身を任す。
私に口付けで快感を与えながら、アリスは器用に私のタンクトップをたくし上げ、ブラジャーのホックを外した。
ゆっくりと唇を離したアリスは、私の胸に唇を近づける。
胸の敏感な部分にアリスの吐息が吹きかかるだけで、私の体は軽く痙攣をする。
アリスの滑らかな舌が私の胸の敏感な部分を一舐めする。
「あっ…あ…」
人の姿になってもアリスの舌は犬の姿を保っている。人の舌より薄く、表面は滑らかで、人より自由に動かすことが出来る。
胸の敏感な部分をアリスの滑らかな舌が滑るたびに、私の背骨に電撃が走る。
私の胸を楽しみながらアリスはショートパンツのボタンを外して、私のショートパンツとパンツを器用に下げた。
アリスは舌で胸に快感を与えつつ、優しく指を私の股の谷間を滑らせる。
「あ…わ…ううう…あ~」
脳がショートする感覚に襲われ、次第に私の思考はアリスの与える快感に溺れだす。
「愛してるよ…鏡華…」
アリスが私の耳元で囁くと同時に、股の谷間に滑らせていた指で、私の全身で一番敏感な部分を激しく刺激する。
「あっ!?」
私は全身が激しく痙攣するのと同時に、背骨を突き抜ける電撃で私は意識を失った…
意識が戻った私だが、体の芯に残る快感の残滓が微睡となり意識に纏わり付き、起き上がる気力が出ない。
「もう満足しちゃったの?」
少し寂しそうだが艶のあるアリスの呟きが耳元で聞こえる。
快感の残滓に浸ったまま眠りに付きたい私だが、アリスのこんな声を聞いてしまっては…
この体に感じる柔らかくても張りがあり温かい感覚は…アリスが私に抱き着いている。
徐々に体の感覚も現実に戻ってきたので、目を開き状況を確認する。
ベッドの上で一糸纏わぬ私に、同じく一糸纏わぬアリスが抱き着いた状態だった。
「今度は…私が…」
私はアリスの胸の敏感な部分に優しく口付けをすると…
そこから、入れ替わりお互いの体を十分に楽しんだ私達は、抱き合ったまま快感の海に溺れて意識を失った。
◆◆◆◆◆◆◆◆
意識を取り戻した私達が、合わせ鏡で現生に戻ると窓の外は黄昏時の日差しだった。
…これは、急がないと遅刻だな。
私達は鏡の中で甘い一晩を過ごし、意識を取り戻したのは翌日の夕方だったのだ。
アリスは鏡の中から戻ると、お気に入りのクッションで爆睡をしている。
私はシャワーでアリスの残滓が残る身体を綺麗にすると、メイクをしてドレスを着て出勤準備を終える。
…喉がカラカラだな。
絶え間なく続く喘ぎ声を紡いだ私の喉は、限界まで乾いていた。
冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出し飲んでいると、クッションから起き上がったアリスがやってきた。
ドレスに毛が着かない様に、少し離れた場所でお座りをするアリスだった。
「いってくるね」
私は手を伸ばしアリスの頭を撫でる。
「クワァ~ン」
アリスは近所迷惑にならないように抑えた声で「いってらっしゃい」と、私を見送ってくれた。
歌舞伎町二丁目のマンションを出た私は、花道通りにある大型の雑居ビルに入る。
エレベータで六階に私は向かった。
エレベータの扉が開くと、黒服が私を見付け近づいて来た。
「胡蝶さん。ママがオーナールームで待っているよ」
黒服がママの伝言を私に伝えてくれた。
「ありがとう」
私は黒服の横をすり抜け、エントランスを超え店内に入る。
私はエントランス横にあるバックルームに入り、一番奥にある扉をノックする。
<コンコン>
「どうぞ」
落ち着いた女性の声が聞こえる。
扉を開けると、執務机に黒のミニスカートスーツに身を包んだ、黒髪肩長ボブの少し冷たい印象の美女が座っていた。
女は私の姿を見ると話を始めた。
「鏡華。依頼が入った。詳細は…」
こうして、命を繋ぎ、謎を解くための旅を続ける為の…次の依頼が始まった。
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