第1話
「ルイ、アブソルのペアだ。宝物庫前に着いた。これから鍵こじ開けるぞ。」
無線機からビーと了解の合図が鳴る。俺の隣には相棒のアブソルが短剣を構えて辺りを警戒している。俺もアブソルも先ほど薙ぎ払った敵の返り血を浴びて所々赤く染まっていた。
「ルイ、俺が見張っておくからお前は鍵開けてろ。」
アブソルがそう言うと、持っていた鍵をこじ開けるための道具を俺に放り投げた。
十数年使い続け、手に馴染んだ道具で息をするように鍵をこじ開ける。いつものようにたったの数秒で扉を開けることができた。
宝物庫の中にはたくさんの箱が積まれており、入りきらなかったのであろう宝石や金貨などが床に散らばっている。用意していた袋に散らばった宝石や金貨を放り込み、見張りをしていたアブソルも積まれた箱の中身をどんどん取り出していく。すぐに一つ目の袋がいっぱいになり、その調子で二つ目、三つ目の袋にも宝を放り込んでいった。
「五人?いや、六人か?敵が目の前の階段を登ってる音がする。」
耳の良いアブソルが敵の足音を感じ取ったらしい。
「それって、さっきお前が殺し損ねたやつじゃねぇの?やっぱ俺みたいにちゃんと殺しとかないと。」
俺が言うと、アブソルは一瞬驚いたような目で瞬きをしたが、すぐに元の表情に戻った。
「ははっ、やっぱルイだけは敵に回したくないな。でもさ、殺さなくても気絶させとけばよくね?」
やっぱアブソルは甘いところがある。
まあ、それはそうと、もう宝はあらかた盗り終わっている。そろそろ撤退するべきだ。
「2対6は分が悪いからな。ルイ、回り込んで裏庭につながる窓から逃げよう。」
アブソルはそう言うと、宝の入った袋を軽々と持ち上げ、走り出した。俺も宝の袋を抱え込み、宝物庫を後にした。
日もすっかり暮れ、フクロウが鳴く声が聞こえる。逃走も難なく終わり、アジトの中。今回、俺たちカラ盗賊団の「狩り」は大成功だった。逃げ遅れたやつも、死んだやつもいなかった狩りは今までになかなかない。俺とアブソルが手際よく宝を盗れたことが成功に繋がったらしい。隣にいるアブソルも誇らしげに酒を口にしている。周りの仲間たちも酒を交わし合って今日の成功を讃え合う。中央にある大きなテーブルに乗り上げ踊る者もいれば、今日の活躍を長々と自慢している者もいる。楽器の弾ける者は愉快な曲を弾き、踊りの踊れる者は優美な舞で宴を盛り上げる。アジトの洞穴を照らすランタンの火も、まるで喜ぶかように揺れていた。
「アブソル!ルイ!今日はおめでとう!」
ふと後ろから声をかけられた。振り返ると、アブソルの姉のセラータがいた。セラータは血の繋がっていない俺のことも兄弟のように接してくれている。
「今日は一緒に狩りできなくてごめんな?ちょっと他んとこで狩りしてたんだ。」
「俺たちは全然平気!それより、姉ちゃんの方の狩りはどうだったんだ?」
アブソルの言葉に、セラータは気まずそうに視線をずらす。
「それがな、あんま上手くいかなかったんだ…。でも!目的の物さえ盗れなかったが、代わりによくわからんアクセサリーは盗れた。」
そう言うと、セラータは服のポケットから真っ黒なリングを取り出した。
「アタシも同じようなやつを腕につけたんだ。でもそっちは多分ピアスだと思う。まあ、おもちゃみたいな物だけど兄弟の印ってことでもらってくれよ!」
もらったピアスはランタンの灯りも反射せず、周りの光を吸収している。その色を表現するには、漆黒が一番適しているように感じる。
耳元でバチンと音がする。
俺は、慣れないピアスの重さを左耳に感じながら、勝利の酒をまた一口味わった。
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