赤いスカーフ

やなぎ

プロローグ

激しい雨音が響く森の中を、何かから逃げるように走る女がいた。女は抱えてる赤子に雨が降りかからないように身をかがめて走っている。女の状況とは裏腹に、木々は強い風に煽られどっと歓声を上げる。

真っ暗な夜道を照らすのは時折落ちる稲妻だけだった。

 女は転びそうになりながらも走り続けると、森を抜け、少し開けたところへと出た。目の前には洞穴があり、その入り口には簡素な扉が取り付けられていた。扉の隙間からは灯りが漏れている。中には誰かいるのかもしれない。女は抱えていた赤子を絹の布で包み直し、入り口の前へ置いた。

「あなただけでも、あなただけでも良いから生き残っ――」 女の囁きは落ちた雷の轟でかき消された。


真夏のむっとする風に、雨の匂い。


なんとも季節外れの嵐だった。

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